認知バイアスによる『自分が正しい症候群』と向き合う

無意識に自分の趣向に合う情報を集めたり、反証する情報を省いて辻褄を合わせようとする認知バイアスと付き合う上で、科学者のような振る舞いをすると良いのではないでしょうか。

自分が想像している以上に視野は狭い

Web・アプリで見ている世界は『自分たちに都合の良い空間』と言っても過言ではありません。 Facebook, Instagram, Twitter をはじめとしたソーシャルメディアはアルゴリズムによって好みの情報に絞ったタイムラインになっていますし、都合が悪いものは、非表示することも簡単にできます。

ソーシャルメディアだけでなく、検索も同じです。自分が見ている世界がどれだけバイアスがかかっているのかを知る上で DuckDuckGo は便利なツール。Google をはじめとした大手検索エンジンはユーザー情報を基に検索順位を変えていますが、DuckDuckGo はパーソナライズを一切省いた検索結果を表示します。これで検索結果を比べると、上位に出てくるサイトがどれだけコントロールされているのか分かります。

自分にとって都合の良いものだけが見えている世界に浸っていると、違う意見に対する拒絶反応が強くなるだけでなく、一切遮断してしまうこともあります。「Emotion shapes the diffusion of moralized content in social networks」によると、Twitter で同じ政治思想をもった人たちのなかで広がる声も、そこから外へはほとんど広がらないそうです。自分たちのグループの中で独自の「道徳」「正義」を作り出す傾向があり、それが 分断化を加速させているのでしょう。

同調する意見ツイートは分断へ向かう政治思想の違いによってツイートが完全に分断されているのが分かります

無意識に自分の趣向に合う情報を集めたり、反証する情報を省いて辻褄を合わせようとする傾向は誰にでもあります。これを認知心理学では確証バイアス(confirmation bias)と呼んでいて、関連書籍も幾つか出ています。以前、デザイン調査にあるバイアスとの向き合い方でも取り上げたことがありますが、デザイン調査だけに留まりません。デザインフィードバックを受ける際はもちろん、プロダクト開発にも影響します。

自分がもつ『当たり前』を強く主張してしまう可能性もあるでしょうし、反対意見を拒絶してしまって建設的な対話が難しくなる場合もあります。特に新しいアイデアの提案に認知バイアスが邪魔することがあります。私たちは知っていること、定評のあるものを求めがちです。新しい情報に対しても、認知していることと合わないものであれば拒否する傾向があります。

日々、フィルターバブルの中で暮らしていると、仕事の仕方にまで影響しかねません。

認知バイアスと上手に付き合う

ダニエル・カーネマン氏の書籍「ファスト&スロー」は認知バイアスだけでなく、私たちがもつバイアス全般を取り上げています。バイアスを深く研究をした彼でさえ、バイアスから逃れることができないそうです。私たちの行動や決断は過去の経験によるものが多いわけですから、「バイアスをなくす」ということ事態に無理があります。

ただ、認知バイアスが悪いことなのかというと、そうとは言い切れません。New Yorker の記事「Why Facts Don’t Change Our Minds」に書かれていますが、バイアスが抽象的な問題や見慣れない情報に対して、他の人と協力し合う原動力になる場合もあるそうです。他の視点があることで、自分の考えを見直すキッカケを作るのでしょう。バイアスがあることを認めた上で、「だから耳を傾けなければならない」という次のアクションを踏めるようになるのが理想です。

認知バイアスと付き合う上で、科学者のような振る舞いをすると良いのではないでしょうか。彼らは仮説を立てた上で、あえて反証するものを探すことがあります。データなどを集めて仮説に矛盾がないか調査しますが、それと似たアプローチはデザインでも使えそうです。定番と言われている UI デザインも、調査をすれば反対意見も出てくるはずです。どういう立場で反対なのかを知るだけでも、UI の強み・弱み、何を取捨選択しているのか理解できるようになります。

認知バイアスに限った話ではないですが、バイアスは私たちの人格の一部であることから、完全に消し去ることはできません。無意識にバイアスが発生しているわけですから、意識して見つけようとしないと気付かないと思います。「The Elements of Persuasion」の著者・Robert Dickman 氏のビデオでも紹介されていますが、自身の信念によって引き起こした過去の失敗を振り返ると自分がもつバイアスに気付くかもしれません。

筆者について

Photo of Yasuhisa Hasegawa

組織の一員となるスタイルで一緒にデザインに関わる課題を解決するといった仕事をするなど、チームでデザインに取り組むためのお手伝いをしています。各地でデザインに関わる様々なトピックで講師をしています。