文脈によって活かされるコンテンツ配信

時間、場所、デバイスなど技術的に取得できる文脈をコンテンツ配信に利用することができます。文脈がすべてではありませんが、小さなことからスタートしてみることで、Webサイトは静的なコンテンツを流すだけではないことに気付く機会を与えてくれます。

今年の始めに執筆した「文脈を理解したWebコミュニケーションデザイン」で、利用者の文脈を理解して Web サイトを設計する必要性を解説しました。当時は Web サイトデザイン全般について供述していましたが、コンテンツ戦略にとっても文脈は大事です。

PC版とモバイル版の NRP

先日のWordCampで紹介した NPRの映画レビューのページが好例です。PC版では大きなスクリーンサイズと高速回線を活用して、大きな写真や動画だけでなく本文に付随する様々な情報が用意されています。しかし、モバイル版では小さな画像と本文のみが提供されています。小さなスクリーンで移動中かもしれない利用者に対して「目的の記事を読む」というニーズに素直に応えた形になっています。さらにiPadアプリだと、また見せ方が少し違います。タブレットはリビングルームのような気軽な生活の場で利用されるデバイス。ゆったり座りながら記事が読めるようなレイアウトと情報構成になっています。

NPR iPad アプリ

コンテンツを細分化することで、様々な状態に合わせて最適な形でコンテンツが配信出来ます。では『最適な形』をどのように見つけ出すのでしょうか?その理解の第一歩として文脈があります。

モバイル機器やPCに問わず、技術的に取得できる文脈は幾つかあります。

  • 時間
  • 場所
  • ブラウザ
  • サービス / アプリ
  • ソーシャルネットワーク
  • デバイス
  • 回線速度
  • 天気
  • 言語設定

これらの情報を基にコンテンツを配信するという手法は、モバイルプロモーションで幾つか例をみることが出来ます。ある特定の場所へ行けば広告を受信することが出来る Placecast は数年前からありますし、最近では foursquare のようなロケーションサービスと企業がタイアップしてプロモーションをするところが増えてきました。1日に1つだけ特売製品を販売する woot! は時間を活用したプロモーションです。

こうしたプロモーションは突発的で面白みがありますが、今後こうしたプロモーションだけでなく、様々な場で文脈を活用するシーンが出てくるはずです。

品川区の Web サイト

例えば 品川区のような公共Webサイトを見てみましょう。様々な情報が平等に配置されている、このタイプでは一般的な形式です。誰でもどの情報にアクセス出来るようにする必要はありますが、誰もが同じ入り口である必要はありません。区内に住んでいる人と、遠く離れた人が同じ目的でアクセスしているとは限りません。様々な文脈が、今までとは少し違う情報の見せ方があることを教えてくれます。

  • モバイルで区内からアクセスした場合は、場所と窓口の情報を優先的にみせる
  • 都外からのアクセスであれば、プロモーション色を強める
  • 選挙が近いなら投票のための申請や場所を告知する
  • 洪水・地震などの災害が発生したときには現状だけでなく対処方法の情報を掲載する
  • 夜中に健康・福祉ページにアクセスしていれば、今開いている病院を探している
  • 春先に学校ページにアクセスしていれば、入学・転入に関する情報を探している
  • SNSのステータスによって異なるライフステージの情報を提供する
  • 英語に設定してあるデバイスであれば英語を先に見せる

上記の中には既にされていることもありますし、Webサイト管理者の手によって出来ていることも少なくありません。ただ、このように文脈に注目することで、コンテンツ配信の可能性が広がるのが分かると思います。従来では実装が非常に難しかったことも、レスポンシブ・Webデザイン、HTML5、Social Graph などを活用することで、開発のための敷居はいくらか下がったと思います。

もちろん、文脈はコンテンツ配信を考える上での考慮対象のひとつであり、答えではありません。そして、上記に挙げた技術的に取得できる文脈もすべて使えば効果があるわけでもありません。プロジェクトによって最適な文脈はひとつだけで良いかもしれませんし、組み合わせになるのかもしれません。まずは、小さなチームで実装出来るようなことから初めて、文脈によってコンテンツ配信の仕方を変えるということに気付いてもらうことがスタートです。それが、Webサイトは静的なコンテンツを流すだけではないと知ってもらう一歩になります。

筆者について

Photo of Yasuhisa Hasegawa

組織の一員となるスタイルで一緒にデザインに関わる課題を解決するといった仕事をするなど、チームでデザインに取り組むためのお手伝いをしています。各地でデザインに関わる様々なトピックで講師をしています。