デザイン、コード、マルチスキルの世界と私たち

ハイブリッドか専門家。いずれかが優れているのではなく、仕事環境に応じて求められている人材が異なります。UX、インタラクション、IA、グラフィックといった『ラベル』を自分に当てはめる前に、まずはテクノロジーを知ることが、自身の場所を確立するための最初の一歩になると思います。

Do you have great skills?

比較は実はナンセンス

デザイナーはコードが書けたほうが良いのか?

ハイブリッドなのか専門家なのか・・・長く議論されてきているトピックのひとつです。Webデザインの分野でもデザイナーは HTML / CSS / JavaScript くらい出来た方が良いのでは?という意見がありますし、最近では UI デザイナーが Object-C や Java を学んだほうが良いのでは?という意見もあります。

デザイナーがコードの領域に踏み込めるようになることで、インタラクションや画面遷移など、見た目だけでなく細かい動きの制御の設計に直に触れることが可能になります。コードから物事が見れるようになることで、初めて視覚化・具体化できるアイデアもあるでしょう。では、コードも書けるハイブリッドデザイナーのほうが優れているのかといえば、答えは「YES」であり「NO」でもあります。多くの技能をもつということは、何でも屋になる可能性もありますし、特徴のない制作者になる可能性もあるからです。

コードも書けるデザイナーが求められているのか、それともデザインを突き詰めている人材が必要とされているのか?実際のところ、どちらも求められています。スタートアップや中小企業であれば、それぞれの専門家を雇う資金がない場合がありますし、スピードと柔軟性が求められることがあります。そうした環境では、すぐに必要なモノを作ることができるハイブリッドデザイナーが重宝されるかもしれません。しかし、制作プロセスが確立されている大きめの企業であれば、コードが書けなくても専門知識が長けているデザイナーは必要とされる人材でしょう。

スキルセットがあるから○○のような場で働ける・・・と考えるよりかは、○○のような場で働くにはこのスキルが必要だという考え方のほうがシックリくるかもしれません。時にはハイブリッドなのかもしれませんし、デザインだけ(もしくはコードを書くことだけ)という場合もあります。いずれかが優れているのではなく、仕事環境に応じて求められている人材が異なるということです。

マルチスキルな環境の下で

上記の解説は、主に雇用の視点でみてきたわけですが、HCDの視点から見てみるとどうでしょうか。

設計する製品・サービスのビジョンを持ち続けながら、様々な制約やプレッシャーに絶えつつ複数の分野で高い水準の仕事をすることは可能なのでしょうか。なんとなく不可能に感じますし、出来たとしてもごく限られた『スーパースター』だけが成せる業のように思えます。

『デザイン』『コード』という言葉の意味が非常に大きくなってきているのも難しくさせているひとつの要因かもしれません。Webデザインに絞ったとしても、UX、インタラクション、IA、グラフィックなど数多くのスキルを要しますし、コードにしても言語の違いだけでなく最適化、高速化、セキュリティ、運営保守・管理などそれぞれ高い専門性を要する場合があります。たとえ、デザインの専門を突き進むといっても、その中ですらハイブリッド、もしくはマルチスキルになるわけです。

さらにコードとデザインだけでなく、マーケティング、マネージメント、品質保持など様々な分野が製品・サービスの設計プロセスに介入します。自分が専門性をもったデザイナーであったとしても、制作に直接関わらない分野の介入は避けられませんし、デザインに大きな影響を及ぼします。

こうした中で私たちは仕事をしているからこそ、何を勉強したら良いか分からない、これからどう進めば良いのか分からないという悩みが生まれるのではないでしょうか。

ゴールの視覚化が出来るスキルとは

コードを真剣に学ぶか学ばないかは個人の判断に任せますが、デザイナーは今後ますますテクノロジーを考慮した設計が求められます。言い方を変えれば、テクノロジーを考慮しないでデザインをすることは、利用者に害を及ぼすといっても過言ではないわけです。デザイナーは、今あるテクノロジーが利用者に及ぼす影響を考慮しつつ、ビジネスゴールが達成できるソリューションを視覚化しなければいけません。これは簡単なタスクではありませんが、考える際のヒントは幾つかあります。

  • 利用者にとって最適な環境はどのテクノロジーを使えば実現できるのか?
  • 選定したテクノロジーを本当に使う必要があるのか?他の方法は考えられないのだろうか?
  • そのテクノロジーを使うことによる制作者へのメリットは?表現の幅は?制約は?
  • テクノロジーが解決できる領域はどこか? インターフェイスで解決したほうが適している部分は?

こうした質問にデザイナーが応えられるようになることで、他分野の人たちとの会話が円滑になる場合がありますし、相手の視点の理解にも繋がる場合があります。たとえコードが書けなかったとしても、使われるテクノロジーを知ることによって、様々な視点を知る機会を与えてくれますし、見た目が綺麗なインターフェイス・・・に留まるのではなく、ニーズを視覚化しつつ、テクノロジーに沿ったデザインになるでしょう。UX、インタラクション、IA、グラフィックといった『ラベル』を自分に当てはめる前に、まずはテクノロジーを知ることが、自身の場所を確立するための最初の一歩になると思います。

今後ますますデザインとコードの関係は近いものになりますし、デザインにおいて職の領域はあやふやなものになる可能性もあります。そうしなければ、今の利用者に応えるデザインが出来なくなってきています。デザイナーがコードを学べるのであれば、そうすれば良いと思います。たとえ習得しなかったとしても、テクノロジーをコミュニケーションの窓口にすることで、エンジニアと近い関係を保った『ハイブリッドな設計プロセス』を作り出すことが出来るはずです。

筆者について

Photo of Yasuhisa Hasegawa

組織の一員となるスタイルで一緒にデザインに関わる課題を解決するといった仕事をするなど、チームでデザインに取り組むためのお手伝いをしています。各地でデザインに関わる様々なトピックで講師をしています。