保存アイコンでみえてくるアイコンデザインの勘違い

メタファが時代遅れだから、適切なアイコンではないと解釈するのは間違っています。利用者の行動を促すにはどうしたらいいのか。学習しやすい構成や導線はどのように設計すればいいのか。そこにアイコンデザインのヒントが隠されています。

先日 Goodpatch さんが 保存アイコン=フロッピーディスクの時代は終わった…? という興味深い記事が掲載されていました。フロッピーディスクを保存アイコンをとして採用するのは古いのではないか、という議論は国内外で何年かに一回はあります。私も 2009 年に変わりゆく「保存」の存在と題してフロッピーディスクアイコンのあり方も踏まえて、今後の保存の姿を模索していました。また、先月開催された Android Bazaar Conference 2013 Spring でも同じ話題に触れています。

アイコンと問題解決について

様々な保存アイコンのコンセプト

様々なデザイナーが新しい保存アイコンを提案しているものの、「うん、これは保存だ」と納得できたものはほとんどなかったと思います。ダウンロードにみえるものも少なくありませんし、中には抽象的すぎて何を意味しているのかさえ分からないのもあります。自分たちのクリエイティブアウトプットの練習として、こうした新しい保存アイコンを模索することは素晴らしいことです。しかし「フロッピーディスクは誰でも使っていないから、理解できない」と解釈するのは安易過ぎます。また、フロッピーディスクであるがために、保存が何処にあるのか困ったという事例が増えているわけでもないので、壊れていないものに手を加えるのはリスクを伴います。

アイコンをデザインするとき、実世界のオブジェクトやアクションを象徴化することがあります。フロッピーディスクが採用されたのも、当時データを書き込む(保存する)媒体がフロッピーディスクが主流だったことから、利用者は保存というアクションと関連付けしやすかったからでしょう。

このように実世界のオブジェクトをメタファにしてアイコンが作られる『べき』と捉えるのであれば、フロッピーディスクは今の時代に適合しません。しかし、アイコンの本質は利用者がフロッピーディスクを使っているのか、又は知っているかどうかが問題ではありません。ここで重要なのは、フロッピーディスクの形を見せただけで、保存という行動を促すことができるという点です。

メタファからイディオムへ

1995年、アラン・クーパー氏が The Myth of Metaphor という文献を発表しました。この文献で、彼はメタファに頼りすぎたデザインは害を及ぼすと警告しています。一見、学習コストを落とす役割を果たしているかのようにみえるメタファですが、実世界を真似ることで、ソフトウェアの可能性を制限していまうことがあるという見解を示しています。ソフトウェアは常に進化し、新しい機能や可能性を次々の追加できることを考えると、メタファに頼りすぎることで、だんだんイメージと機能がかけ離れていきます。また、メタファに捕われることで機能を狭めてしまう(又は気付いてもらえない)という危険性もあります。

電話アイコン

こうした課題は、「フロッピーディスク=保存」だけでなく様々なアイコンにいえます。「電話」「メール」「フォルダ」もメタファを利用したアイコンを使ったことで、最初は分かりやすかったものの、今や実世界のオブジェクトとはかけ離れた存在になっています。

そこでクーパー氏は、UI デザインは「Idiomatic(イディオム・慣用句)」であるべきだと提案しています。直訳すると意味が分からない表現も、意味が通じる言い回しのことを慣用句といいます。例えば「舌を巻く」という言葉をそのまま捉えてしまうと妙な表現ですが、多くの人が「感嘆する」と捉えるはずです。GUI 要素でもこうした慣用句的な表現を用いているものがあり、例えば、スクロールバーやプルダウンメニューはその一例です。スクロールバーは実世界には存在しない要素ですが、右側にスクロールバーがあり、それが今ページの何処にいるかを示しているのかを教えてくれます。

「保存=フロッピー」はメタファのデザインとしてはじまったわけですが、多くの方がそれを保存として捉えることができているという点では、イディオムに進化(成熟)したと考えることができます。

アイコンとUIデザインの可能性を広げよう

Nikeロゴロゴもイディオムになる場合があります。例えば Nike のロゴをみると社名だけでなく「Just do it」を連想する方もいます。

メタファを用いたアイコンデザインは間違っているから、イディオムを意識してデザインしよう・・・といっても簡単にできることではありません。「フロッピーディスク=保存」というメタファから慣用句的な存在に進化する場合もあるわけですから、メタファを使うことに躊躇しなくても良いと思います。ここで重要なのは、メタファが時代遅れだから、適切なアイコンではないと解釈するのは間違っているという点です。

以下に、アイコンデザインの評価と採用のポイントをまとめました。

ラベルは重要
メタファになるオブジェクトがあれば良いのですが、ソフトウェアの機能に当てはまるオブジェクトが常に存在するとは限りません。才能あるデザイナーが努力してもアイコンだけで理解できるものを作るのは困難です。単独で存在させるのではなく、まずラベルを補助する形からはじめましょう。
無理にクリエイティブにならない
ドン・ノーマンの著書「The Design of Everyday Things」には、もしすべて失敗したのであれば、定番を使おうという言葉が記されています。迷った場合は、よく使われている形状を採用するといいでしょう。
直感的ではなく学習しやすさ
直感的なのは習慣化されている場合が多いです。つまり、直感性をデザインすることを考えるのではなく、学習しやすい状態を作り出すにはどうしたら良いかを優先しましょう。
タッチやアニメーションも考慮
今までは操作ボタンが必要だったものも、ちょっとした装飾で「これは操作できる部分」と利用者に伝えることができるようになりました。アイコンを添えた数々のボタンを提供するのではなく、コンテンツの見せ方で解決できるものもあります。

別の議論で、そもそも「保存」という機能はいらないという意見もあります。私が愛用している Byword も保存という概念がなく、いつの間にか iCloud 経由で同期されているのが好きな点ではあります。しかし、すべての「保存」がこうした自動化がふさわしいのかというそうではありません。バージョン管理のようなコミットというアクションも含めた保存は自動化は適切ではないですし、保存というアクションがあることで利用者が自分で操作をコントロールしているという安心感もあります。

こうしたことから、保存は何かしらの形で残るでしょうけど、フロッピーディスクのアイコンを変えようという以前に、保存というアクションと導線のデザインの見直しのほうが先決じゃないかなと思いました。

筆者について

Photo of Yasuhisa Hasegawa

組織の一員となるスタイルで一緒にデザインに関わる課題を解決するといった仕事をするなど、チームでデザインに取り組むためのお手伝いをしています。各地でデザインに関わる様々なトピックで講師をしています。