作れることは正義である

CSS Nite in Shift7 の講演も模様撮影:飯田昌之

12月14日に CSS Nite Shift7 が開催されました。基調講演ということで、少し先の未来を話すようにしていましたが、今回は未来に備えるための『今の話』をしました。「スクリーンの先、私たちの仕事の先」という題名で話した今回の講演。スクリーンの外を見ようというメッセージは伝わったと思いますが、仕事の先の意味が捉え難かったかもしれないので、この記事で解説しようと思います。

アイデアと完成品との間

アイデアがあるからこそ、新しいサービスやプロダクトが生まれます。しかし、この間には大きな溝があって、なかなか繋がらないことがあります。素晴らしいアイデアでも製品にしてみるとそうでもなかったり、どこかで質が低下してしまったり、アイデアが製品にうまく反映していなかったり、いろいろです。

Web サイト制作の世界では、この溝が広く深いことがあります。アイデアを生み出したり、設計に関わる「考える人」と、実際手を動かして構築する「作る人」が完全に分離(分業)していることがあります。作るひとが、考える側に立ち入る余地がないこともあります。もちろん、こうした溝を埋めるためのプロジェクト管理であったり、デザインプロセスだと思いますが、このままでは形作るのがますます困難になるのではないかと感じています。

アイデアとプロダクトの間にある『溝』

人、デバイス、サービスが、物理的にも心理的にも社会的にも近い関係になった現在。「スクリーン上の見た目」を作っていることは、デザインのほんの一部しか見ていないといっても過言ではありません。スクリーンショットだけを見て「良いよね、カッコいい」と言っている間は、利用者がどのようにデバイスと向き合いながら、アプリと接するのかということまで考えているとは言い切れないわけです。

たとえ、スクリーン上の UI を作る仕事をしていたとしても、社会、人、ハードウェア、ソフトウェアを無視して作ることはできません。つまり、「作る人」が、考える領域に踏み込まなければ、よいモノが作れない状況になったわけです。サービスに関わるデザイナーは、それを痛いほど経験していると思います。

考えを形にする

デザイン思考で最適だと呼ばれる方法論を用いたとしても、誰もが唸る企画書をつくったとしても、いろいろなアイデアが生まれる会議をしたとしても、形に出来ないのであれば意味がないと思います。残念なことに「考える人」は、文字通り考えるところで留まる人も少なくないですし、「作る人」は、ただそれを受け止めるだけということもあります。

今回の講演の(長期的な)目的は、「考える人」と「作る人」を同一化することです。「作る人」は、既に形にするだけの能力と技術をもっているわけですから、「考える」ためのキッカケや方法論の一例を紹介しました。また、「考える人」であれば、プロトタイプ でも何でもいいので、目に見える形にすることの重要性について紹介しました。考えを形にして、また考えて、さらに作る。アイデアと完成品の間にある深い溝を橋渡しするだけでは足りなくて、手を取り合って一緒に進める必要性がでてきたと思います。

もちろん、これは簡単なことではありません。
私も案件によっては、出来ていませんし、そういった体制をつくる最初の一歩で苦労しているということもあります。自分一人ではどうにもならない深刻な課題ですが、今後ますます増えるデバイスを考慮したデザインをしていくには必要な過程だと思っています。

作らないと分からないことは多い

Stalkr

今回 Stalkr という Web アプリを作りました。
人がスマートフォンとどのように接しているのかを、簡単に記録するため(だけ)のアプリです。スマートフォンがどのように使われているかなんて、市場調査やアンケートを実施すれば分かることかもしれませんが、自分の目で確かめることはデータだけでは分からない数々のことを教えてくれます。エスノグラフィとかユーザー調査なんて畏まることなんてないわけです。外に出て、自分なりに調査して、考えをまとめるだけでも、自分のプラスになります。

Stalkrの見た目

このアプリ制作を通じて、久しぶりにプログラミングをしたり、アイコンフォントや CSS3 といった工夫も加えました。現場では、私よりスキルのある人が手を動かすことになるとしても、自分で触って経験したことは、きっと役立つはずです。指示の出し方だけでなく、作る人たちや、クライアントとの対話の仕方が変わるでしょうし、アイデアをいちはやく形にするためのスキルが備わります(ネーミングに苦労しましたが、実装は週末 2 日でしました。それ程度の小さなものですが)。

考えるだけでは実感が湧きません。作るだけでも何か物足りません。両方できるようになるのも良いでしょうし、双方が同等の関係で共創できる場をつくるのを目指すのも良いと思います。どのような立場でも、下手なスケッチでも良いから、アイデアを形にするためのスキルは必要です。

皆で未来をプロトタイプしましょう。

PS : 今は個人的に使っているだけでの Stalkr ですが、来年の早い段階で公開予定です。誰でも自由に記録できるのはマズいので、簡単な承認機能(OAuth あたり)を実装してから公開します。

講演スライドの表紙スライドは2014年1月下旬公開予定です。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。