デザイナーが見たオウンドメディアの課題と接点

4月21日に開催されたオウンドメディア勉強会に参加してきました。肩書きがデザイナーの参加者は私ひとりという個人的に珍しい環境での集まりでしたが、自身のサイトでもコンテンツに関わる記事を幾つか書いていますし、何か学べることがあると思って参加しました。バズワードと化したオウンドメディアやコンテンツマーケティングですが、第一線で活躍されている方たちの実態を知るという意味でも有意義な時間になりました。

バズることは重要なのか

毎回テーマを変えてディスカッションをしているオウンドメディア勉強会ですが、今回の議題は「バズ記事を生み出す編集会議」。バズ記事という言葉を聞くと、PV を稼ぐために釣り記事を作るための施策?と思う方もいるかもしれません。Yahoo! トピックスに載るという緩い目標も耳にしましたが、そもそも何をもって『バズ』と呼ぶのかといった根本的なところから意見交換ができました。具体的なビュー数を出すところもあれば、KPI や滞在時間といった別の指標を組み合わせて判断しているという方もいました。

バズという言葉は、今までリーチしなかった人々へどれだけ届けることができるのかという意味も含まれていると思います。そのようにバズを捉えるのであれば、初めて訪問された方の割合がどれくらいあるのか、今まで見られなかったサイトからの流入があったのかを調べるのも判断材料になるかもしれません。

今回のディスカッションはグループに分かれてされましたが、私が参加したグループで興味深かった傾向として、バズという現象に強い興味を示していなかった点。もちろんたくさんの方に見てもらうために日々努力しているわけですが、むしろお問い合わせといった KPI や、定期訪問者獲得のために何ができるのか模索しているようでした。

私も幾つかのメディアサイトのアクセス解析をしたことがありますが、バズる記事になればなるほど直帰率が上がったり、訪問時間も短くなるという傾向を見たことがあります。バズ記事を通してたくさんの方に見てもらったという事実は残るものの、それを中長期的な視点からメディアサイトを評価したときに利益になるのかどうか疑問が残りました。

やっていることはデザイン

ページビューではなく、自社の利益のために何ができるのかを考えていることから、コンテンツもその目標のために作られています。オウンドメディアから提供できる価値は以下の 3 点があります。

  • 会社(又は自社メディア)の存在を知ってもらう
  • 役に立つ・信用できるメディアだと思ってもらう
  • お問い合わせや購入など具体的な行動をしてもらう

第 3 点目のような直接的な利益に関わるところまでオウンドメディアができるかどうか難しいところですが、第 2 点目のような信用を勝ち取ることで再訪問してもらうことはできるかもしれません。そのためには読者が何に悩んでいるのか、どういった情報を求めているのかといった調査が欠かせなくなります。実際、私が話をしたすべてのメディアは読者調査を必ずしていましたし、ペルソナを作って共有しているところもありました。

読者のことを徹底的に考えて、彼らが消化しやすい形状にコンテンツを磨けあげていく。しかし、自社メディアの性格・大事にしている価値観を見失うことなく、読者に伝えるといった姿勢を保つこと。話を聞いているうちに、言葉の使い方は多少違うだけで、実践していることはデザインを大して変わらないことに気づきました。

  • ユーザーと呼ばずに読者と言う
  • UI は専門外のように見えて、その一部は言葉使いで実践されている
  • UX は語らずとも編集にその意味付けがされている

各フェイズにあるオウンドメディアにある課題はデザインと共通しています

考え方、作り方という意味ではデザインと大きな違いはないと感じましたが、オウンドメディアを運営されている方は常に『結果』と向き合っているところが大きな特徴だと思います。調査に基づいて作ることはデザイナーでも実践しているものの、結果までコミットしている人たちはどれだけいるのか考えさせられました。

コミュニケーションデザインをどう学ぶか

信用を勝ち取ることで再訪問してもらうという意味では、メディアと読者との関係を作り出しやすいソーシャルメディアは便利な窓口です。しかし、ソーシャルメディアの運用をどうするか大きな課題のようでした。

オウンドメディアへの流入は検索エンジンが大きな割合を占めているそうです(少なくとも私が話をしたところは)。キーワード調査など SEO をきちんと実践すればある程度の増加を見込むことができます。「SEO であれば簡単」と仰っていた方がいましたが、そう考える理由として「教えやすい」ところがあるそうです。今は書籍や Web で SEO のノウハウはたくさんありますし、「こうすれば、こうなる」といった手法と結果を分かりやすく説明できます。教えやすいからチームで動きやすくなるというメリットもあります。

一方ソーシャルメディアになると、そうはいかなくなります。ツールの使い方は教えることができますが、どのように読者とコミュニケーションをとれば良いのかは、長く使っていないと分からないことがあります。「正直になりましょう」「会話式にしましょう」といった概念はソーシャルメディアマーケティングで話されることがありますが、SEO のような具体性のある手法ではありませんし、それを実践したから必ず結果になるわけでもありません。

私も TwitterFacebookInstagram で情報発信していて、それぞれ異なる形状と種類のコンテンツを出し分けています。また、最近では短い動画を作るなどコンテンツのバラエティを増やしてみたり模索を始めています。実際のところ私のサイトの流入はソーシャルメディアは高い割合ですし、Twitter と Instragram のフォロワーの数は徐々に増えてきています。個人的に伝えることができるノウハウはあるものの、それを同じようにしたら成功すると言えるものではありません。「とにかく色々試してみる」という教え方をして実践できる人はわずかですし、自社のメディアという立場からだと余計難しいです。

読者獲得を検索エンジンに頼るだけでは、肥大化するコンテンツ市場で生き残るのは困難です。メディアを知ってもらうための窓口としてソーシャルメディアは無視できないわけですが、そこをチームで迅速に動けるようにするのは今後の課題になります。人と人、メディアと人のコミュニケーションをどのように設計したら良いでしょうか。そしてその中にコンテンツはどのような形状がふさわしいのでしょうか。デザイナーの視点からみても興味深いです。

まとめ

今回参加したオウンドメディア勉強会は、職域を超えたコミュニケーションが言葉の違いによって妨げている問題を浮き彫りにしました。同じように人を見ていて、そのために何かを作ろうとしています。しかし、言葉や肩書きが違うことから一緒に働ける機会を失っていることがあるかもしれません。デザイナーは、言葉や意味を『翻訳』することがひとつの役割です。それをユーザーだけではなく一緒に働く人たちにも向けていく必要があるでしょう。

今回はオウンドメディアを運用している方をメインターゲットした勉強会ではあるものの、デザイナーをはじめ、他の業種の方が参加しても何か吸収できることがあると思います。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。