Q&A: 日本語サイトで英語を多用しているのはどう考えていますか?

社会にあるあらゆるデザインについて言えますが、日本語だけで表現できるものにあえて英語を使ったり、アクセントとして英語を使うことがあります。
英語を使うことがかっこいいという理由だけなのでしょうか?

from: Naoyoshi Suzuki

留学1年して帰国した後、唖然としたのが英語表現がおかしい T シャツを着ている人が多かったこと。自分もおかしな英語が記載されたシャツやグッズをもっていたわけですが、少し英語が理解し始めると妙に思える場合がありますね。海外でもおかしな日本語のシャツを着たりタトゥーにしている人はいるので、日本だけの現象ということではありません。

Webサイトデザインでも英語をデザインの一部として利用しているケースが幾つかみられます。英語のラベルをヘッダーやメニューに入れるケースをよく見かけますが、英語をわざわざ使うのも幾つか理由があります。

装飾としての英語

文字が意味を伝達するための手法として扱われているというより、装飾の一部として捉えられてる場合があります。欧文ならではの曲線や形状がデザインとして魅力的にみえることがあります。横文字としての組みやすさと、書体のバラエティの広さも装飾としての英語が受け入れられやすいひとつの理由かもしれません。

どのような書体で表現するかで伝えたいメッセージの感触・感覚が変わります。
英語を装飾として使うとしても日本語表記と合う書体を探さなければいけません。

文字を装飾として扱うのはタイポグラフィの基本。英語を装飾として扱うことで、メッセージを感覚的に訴えていることが可能になります。作り手は日本語で書かれたラベルの英訳を記載するように心がけていると同時に、どの書体を使うかに細心の注意をはらっています。書体の選択を間違うと「らしくない」という結果になり、全体から浮いた雰囲気になるからです。英単語を装飾として選んでいる場合は、どう訳されているかより、どう見えているかのほうが重要になるでしょう。

メッセージとしての英語

文法的に正しいかどうかより、ターゲットにしている日本人がパッと見たときになんとなく伝わるかどうかが重要ということもあります。

コカコーラ Wild Health ロゴ2010年にコカ・コーラ ゼロが「Wild Health」というキャッチコピーを使ってプロモーションをしていました。何を言っているのかさっぱり分からない英語の表現ですが、当時コカ・コーラが伝えたいイメージを学生にも理解できる言葉にしているところがポイントです。コカ・コーラ ゼロには「進化を果たす」というメッセージがあるので、「Evolution」を使ったほうが正しいかもしれません。しかし、そうなった瞬間に多くの人に響く言葉ではなくなります。小学生も聞いたことあるような、カタカナ英語になっているようなフレーズを使って伝えているところが重要で、世界中の人が理解出来る正しい英語を使うことが重要ではないわけです。

このように和製英語がひとつの伝える言語になっている場合があります。

ブランドとしての英語

ブランドとの相性によっては、英語をつかうことが必然である場合があります。例えばユニクロの衣服類の分類が「Men」「Women」「Kids」ではなく、「男性」「女性」「子供」と書かれていると妙に感じる方もいるでしょう。もちろん日本語にしても見ている人に情報を伝えることができます。しかし、店舗、チラシ、CM など様々な媒体を通して伝えようとしているイメージが英単語から日本語に変わることでズレ始める場合もあります。全体で「Men」と通しているのに、親切ではないからという考えだけで「男性」としては他で作り出した世界観を壊す可能性すらあります。

Uniqlo ナビゲーション英語をラベルで使うことはひとつの文化になっているケース。
日本・韓国・中国ではいずれも英語表記を利用している。

英語を使うということが、どこか「カッコイイ」と感じることがあります。この英語を使うことがカッコイイという感覚は、ひとつの日本文化なのかもしれません。もし「カッコイイ」が企業のブランドイメージとマッチするのであれば、英単語を多用するのもひとつの選択肢です。実際、英語を使っている企業の多くはどこかかっこよさを求めているところが少なくないはずです。

言語としての英語

日本語に比べると英語のほうが気持ちを伝えやすい場合があります。

日本語はハイコンテキストな言語として知られています。日本語は主語を省略してコミュニケーションをとることが一般的な言語ですが、主語の欠落により、言葉が様々な立場と視点から発することを可能にしています。話し手が話し手の視点で話しているのかと思えば、物体や有機物の視点に入れ替えて話すこともできます。話し手が自分もしくは別のモノ・コト・ヒトと同化して話すことが出来るわけです。

「そこへ入ることができた」

この何気ない文章にも様々な可能性があります。

  • 話し手が何処かに入ったことを誰かに告げている
  • 第三者が入ったことを誰かに告げている
  • モノ・コトが入ったことを比喩的に表現している
  • 何かを達成したことを隠喩的に表現している

これが英語になると、例えば「I could entroll」という表現ができます。主語を必須とするので、誰がどういう立場で話しているのか分かるだけでなく、enroll (入学する) という「入る」とはより具体的な表現になったことで何を話しているのか明確になりました。このように、同じ表現にも関わらず様々な視点と立場から物事を発することが出来る日本語。それ故、日本語は英語に比べてハイコンテキストと言われており、理解に時間がかかったり誤解を生みやすいことがあります。

キャチフレーズに英語を用いる企業は少なくありませんが、その理由のひとつとして、英語のほうがストレートに伝えたいメッセージを伝えることが出来るという点にあります。日本語が生み出す『深み』が、時に伝えたいメッセージを不透明にしてしまう場合があるからです。もちろん、日本語が伝える言語として向いていないわけではありません。伝えたいメッセージと英語の単刀直入な表現との相性が良いと、英語になる場合があるということです。

英語がカッコいいの答えではない

今回いただいた質問を基に英語を使う理由と可能性を幾つか挙げましたが、「ただ使いたかったから使った」と思わせるような表現も少なくありません。英語を使うメリットは幾つかあるものの、英語を使ったことで顧客を突き放してしまう場合があります。英語を見ただけで拒絶反応を示してしまう人もたくさんいるからです。それが「People」という短い英単語だったとしても理解に時間がかかる場合があります。

ブランドイメージを伝える『武器』として英語を選んでいることは先述しましたが、英語を使わなければ伝わらないというわけではないはずです。一体、誰に何を伝えたいのかというデザインの第一ステップに戻ることで表現の仕方も見えてくるのではないでしょうか。そのときに英語が最適であるという判断がついたのであれば、使ったほうが良いと思います。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。