デザインの過程を見せるのはスキルアップの近道になる理由
結果だけでなく過程も
途中経過を見せることはデザインへの誤解が生じると考える人はいるかもしれません。また、途中経過は『企業秘密』だから見せるべきではないと考える人もいるでしょう。そもそも恥ずかしいから見せたくない人も少なくありません。自分も最初は恥ずかしかったですし、そもそも途中経過は見せる必要ないと思っていたほうでした。
しかし、今は途中経過を見せなければ良いデザインが生まれないと考えるようになりました。手描きのものから、インタラクションがあるものまで様々な形状を作っては見せています。仕事現場だけでなく、Twitter や Instagram のような場でも見せることもありますし、このブログにしてもデザインにおける途中経過を文章として表していることが多いです。
完成されたモノをどう作るかというノウハウも重要ですが、デザインという『よく分からないもの』が生まれるまでのプロセスを見せるほうに興味があります。
Anyone who influences what the design becomes is the designer.
— Jared Spool (@jmspool) March 1, 2017
This includes developers, PMs, even corporate legal. All are the designers.
3 月に Jared Spool 氏が「開発者であろうと、PMであろうとデザインに関わるすべての人がデザイナーだ」というツイートをしました。これに反論したデザイナーは少なくなかったですし、しばらく議論が続きました。この言葉をどう受け止めるかは読者ひとりひとりに任せますが、ひとつ確かなのはデザインプロセスを開示していくからといって、私たちデザイナーの存在が必要なくなるわけではありません。デザインは単なる見た目を作ることだけではないことを知ってもらうには、デザインプロセスを見せたり、行程に参加してもらうべきだと考えています。
デザインがブラックボックス化していることで、周りの評価も完成品の良し悪し(好み)になってしまうことは少なくありません。ボタンひとつにしても、その見た目には様々な理由(文脈)があるはずです。しかし、過程を知らないまま完成された赤いボタンだけを見ただけでは、分からないことがたくさん出てきます。
作ったという『結果』だけ見せているだけだと、デザイナーへの評価も『作るだけの人』になっても仕方ないかもしれません。結果だけでなく、過程も見せていくことで、デザインへの理解が一層深まるはずです。途中経過を見せることは、周りへ理解してもらうためのひとつの手段だと考えています。
見せるタイミングを考える
デザインツールの良いところでもあり悪いところは、ひとりで閉じ籠りやすいところです。集中してデザインに励むことができる一方、ずっとひとりで作り込み作業をしてしまいます。周りに見せたときには後戻りするコストが高くなり過ぎてしまうくらい、作り込んでしまうこともあります。
LinkedInの共同創業者として知られる Reid Hoffman さんは「If you are not embarrassed by the first version of your product, you’ve launched too late(最初のバージョンを見せることを恥じていないのであれば、もう遅すぎる)」という言葉を残しています(参照)。
これはスタートアップ企業に向けた言葉ですが、デザインにも似たようなことが言えます。細部まで考え抜いたデザインを見て欲しいと思う一方、微調整を繰り返してばかりで前進しないどころか、余計な心配が増えてしまうこともあります。
ただ、途中経過をすべて見せれば良いわけではありません。Figma であれば、デザイン作業を『生中継』することができますが、そこまでオープンにしてしまうと、かえって集中力が失われたり、方向性が定まらなくなる可能性があります。
デザインを見せるタイミングは「制作工程のこのタイミング」と言えるほど明確ではありません。しかし、以下のような状態に陥ったとき、デザインの途中経過を見せて話すようにしています。これは簡易ユーザーテストをするときも同様です。
- 必要な機能やコンテンツが何か明確にしたいとき
- 後で変更になると工数が大幅にかかるものがあるとき
- 何か抜けている(考慮されていない)と感じたとき
- 大まかな方向性が間違っていないか確認したいとき
こうしたことを考慮したところで、デザインの経過を見せるのが楽になるわけではありません。ネガティブな反応が来るのではと心配することもありますし、意図が伝わるか不安になることもあります。また、見せるタイミングを誤って、大きな変更を余儀なくされることもあります。これは経験を積むしかありませんし、自分の直感を信じることも重要です。何度も途中経過を見せる必要はありませんが、自分の殻に閉篭もらないことが、『自分のデザイン』ではなく『問題解決のためのデザイン』と思える第一歩になります。
人間像やストーリーを共有しながらコンテンツの優先順位を決めていく。 pic.twitter.com/DK5Sj2wlHW
— Yasuhisa (@yhassy) January 16, 2017
まとめ
途中経過を見せることは、完成品を見ただけでは分からないデザインの意図を伝えるための効果的な手段です。もちろん、ただ見せただけではデザイナーの考えていることは伝わりません。デザインについて話せるようになるか、文章で意図を伝える必要があります。デザインの途中経過を見せるという行為は、周りへの理解に繋がるだけでなく、伝えるためのスキルを磨くキッカケにもなります。
完成品の質を高めるには、プロセスへ注目することが不可欠です。それは参考書に書かれているような正しい進め方を真似ることだけでなく、自分が何を考えてどう作っているのかという自身のプロセスを認識して振り返ることを指しています。途中経過を見せることは、自身の思考プロセスを振り返るキッカケになるだけでなく、何をどう作れば伝わるかを意識できるようになります。