重要視されるためのデザイナーの条件

UI だけに限らずデザインの価値が認められない理由のひとつとして、デザイナーが啓蒙のためのデザインをしていないというのは少なからずあると思います。ダイナミックでスピード感溢れる開発プロセスについていけるアプローチが必要です。

もっと早くデザインできる?

内輪受けは止めにしようではないか

LSD LAB で公開されている UIデザイナー不要説は、テクノロジーと付き合うデザイナーであれば一読しておきたい記事のひとつです。私が記事を読んで感じた課題は、 UI デザインが重要視されているかどうかということではなく、果たしてデザイナーは デザインを営業できているかどうかというところです。

たとえビジネスゴールが共有されていたとしても、デザイナーが考える UI デザインの価値と、それ以外の方が考える UI デザインの価値が異なることがあります。特にデザイナーが考える価値は、内輪受けになりやすいことが多々あるように思えます。デザイナーが「すごく良いよね」「イケてるね」というものは、ほとんどの場合デザイナー以外には理解されません。内輪で分かりやすい言葉や感覚で語りかけても、聞き手は「?」(価値を感じない)になってしまいます。

今でもデザイナーのなかでは「流行」「イケてる」と評価されているパララックスデザインは好例です。多彩な動きとビジュアルが融合する楽しいデザインですし、インパクトもあります。しかし、少し裏側を見れば青ざめてしまうサイトやアプリも少なくありません。激しい動きと巨大な画像によってメモリが多く消費され、CPU にも多大な負荷がかかっていることがあります。つまり、制作環境では完璧な成果物でも、2, 3 年前のスマホからだと苦行になることがあります。

利用者のためを思って作ったものが、思わぬ負荷をかけていることは多々あるわけです。パフォーマンスもデザインの課題なので、私の考えることではないと片付けることができるでしょうか。

当然 UI デザインは見た目だけではなく、使いやすさや情報アクセシビリティも考慮しなければいけません。そのためには(ターゲットにしている)利用者の行動や心理への理解が必須になりますが、デザイナーはその段階から参加できているでしょうか。早い段階からプロセスに参加する最大のメリットは、「流行」「イケてる」といった感覚的な表現以外でデザインを語るためのヒントを得ることができるところです。提案するデザインに影響するだけでなく、評価の仕方も変わるでしょう。

デザイナー同士で伝わる言葉やビジュアルではなく、それ以外の方でも理解できる言葉やビジュアルを使うことで、ようやく「UI デザインは重要かどうか」という議論ができるのではないでしょうか。UI だけに限らずデザインの価値が認められない理由のひとつとして、デザイナーが啓蒙のためのデザインをしていないというのは少なからずあると思います。

未完成品がプロセス参加のチケット

デザインを重視してもらうには、もっと設計・開発プロセスに参加しなければいけないわけですが、ここにも大きな課題があります。私も含めてですが、デザイナーは今の開発スピードに完全についていけてないと感じることがあります。開発サイドは短いサイクルを回して小さくても機能を実装して検証していても、開発が作ったものを拡張するデザインがサイクルに乗れていないわけです。開発はデザインが上がるのをひたすら待つといった状態になれば、「デザインはあとで乗っける装飾」と思われても仕方ないかもしれません。

開発のスピードについていくためにもプロトタイプをはじめとした早く作るツールの習得は今のデザイナーには必須です。Keynoteを使うこともあれば、ProttInVision のようなビジュアルベースのプロトタイプツールを使うこともありますし、アニメーションの提案・指示であれば AfterEffects で作ることもあります。目的とタイミングをみながら、効果的なものをどの道具を使えば早く作れるか考えるようにしています。

また、早く作るだけでなく、途中で良いので早く見せることも重要です。デザイナーのなかには途中を見せることが恥ずかしいと感じる方がいますし、出来れば質を最大限に上げたものを見せたいと思いがちです。しかし、その『コダワリ』がスピードを上げることができない状態を生み出していることがあります。

早く見せることは他にもメリットがあります。

時間をかけると感情移入も高まる

経験上、作り込めば作り込むほど、他人からの意見の受け取り方が過剰になりがちです。「こんなに努力したいのに」「だったら早く言え」みたいな反発が生まれてしまいます。エネルギーを長く注ぎ込めば感情移入してしまうのは仕方ありません。しかし、早く出してしまえば少し客観的に自分のデザインを見つめることができる余裕が生まれますし、方向性を随時確かめることができるので後戻りのコストも低くなります。

システムもそうですが、デザインも初めから良いものはほとんど作れません。バージョン 0.1 は酷いものも、0.6 くらいになれば良い感じになり、1.0 でようやく使える状態になるというのは、デザインも同じだと思います。途中でも良いので少しでも早く出すことが、スピードがある開発についていくためのひとつの方法だと思います。

プロセスへの参加を通して「なるほど、デザインは重要だね」「単純な数量測定だけでは分からないことってあるよね」という理解に繋がるのではないでしょうか。

筆者について

Photo of Yasuhisa Hasegawa

組織の一員となるスタイルで一緒にデザインに関わる課題を解決するといった仕事をするなど、チームでデザインに取り組むためのお手伝いをしています。各地でデザインに関わる様々なトピックで講師をしています。