多種多様なWebアクセスにおけるパソコン向けデザインの弱点

パソコンはスクリーンが大きいことから、厳格なプライオリティを必要とせず、とりあえず情報を置くことができた広い空間でした。しかし、パソコンの普及率が日本でも落ちてきていることを考慮すると、いつまでもパソコンを考えの中心に置いた設計ではますます難しくなります。

普及率データ。総務省の資料より抜粋。通信機器の普及率を2010年と2012年度で比較(総務省 2013年)。

日本も既にポストPC時代

先週、総務省が平成二十四年度の通信利用動向調査を発表しました。詳しくは公開されている PDF (又は生データで公開されている Excel/CSV) を参照してほしいですが、特筆すべき点は以下の 6 つです。

  • パソコン(デスクトップやノート)からの Web アクセスは 2009 年をピークに毎年下降している
  • 家庭内、外関係なくパソコンからの Web 利用は低下している
  • 同時に低下しているのは従来の携帯電話。保持率は依然高いが Web アクセスは減ってきている
  • 従来のアクセス端末の利用は低下しているが、今まで以上に Web アクセスする人は増えている
  • 10代から40代の Web 利用率は頭打ちをしているが、増えてきているのが 65 歳以上の高齢者
  • パソコンや従来の携帯電話の代わりになっているのが、タブレットとスマートフォン。毎年2倍以上の成長

調査結果から、以下のような仮説を立てることができます。

  • 日々の生活や、簡単な仕事をこなす程度であれば、スマートフォンやタブレットで十分な人が多い
  • 高齢者やパソコンを諦めた方が、タブレットやスマートフォンに流動している
  • 今まで以上に Web アクセスは多種多様になってきている

調査のほうでは、利用端末の調査だけでなく、利用目的や内容に関する調査もみることができます。その調査からでは、スマートフォンとタブレットでどのようなサービスを利用しているかまでは把握できないものの、見たいもの、したいことのために端末を使い分けているわけではないという利用者の姿が見えてきます。パソコンへの利用は減ってきているにも関わらず、自分の好きなコンテンツを好きなタイミングで見たいという強い意識が調査結果にも出ています。また、Webサイトの観覧やショッピングなど、パソコンでやってきた利用目的が下がっていないところからみても分かります。

ポスト PC 時代は既に来ているという理由を世界規模のデータをつかって紹介することがあります。しかし、それでは「日本だと特別に違うということもあるでしょ?」という声もあり、説得力に欠けていました。今回の総務省が公開したデータをみると、世界の傾向と大して変わりないということが分かります。

パソコンが主軸の『緩いデザイン』は必要ない

PC向けサイトはこちら。ボタンスマートフォンサイトによくある PC サイトへ誘導するボタン。応急処置としては良いアプローチですが、今後検討していかなければならない機能。ズームしたり、細かい移動を利用者に強要させることが良い体験とはいえません。

今のマルチデバイス対応は、変換ツールを使った安易なものと、内容を削ぎ落とした簡易なものの 2 種類が多く存在します。こうしたサイトが作られている理由は様々ですが、そのひとつに「パソコン版があるから大丈夫」という安心感がまだあるからかもしれません。パソコン版のサイト構造が Web コンテンツ配信の中心にあり、そこから分岐する形でデバイス対応版を作るという形式です。パソコンが利用者の生活の中心にあるという先入観と、利用者はあとでパソコンで見直してくれるだろうという甘えもあるのかもしれません。

Mobile Search Moments Study の一部

しかし、上記のデータからみても分かる通り、利用者はもうパソコンから次のデバイスへの移行を始めています。パソコンとモバイル機器を両方もつ・・・のではなく、スマートフォンオンリーという人が増えてきているわけです。Google が今年の 3 月に公開した Mobile Search Moments Study という調査結果を見ると移動中にスマートフォンを使っている人はわずか 17% です。だからモバイル機器といっても移動中ではなく、パソコンの代わりのような存在として使いはじめているわけです。

これだけ人と Web の関わりが変わってきているのに、「パソコン版で大丈夫」という作り方で通用するのでしょうか。パソコン版はすべてのコンテンツや機能が揃っているから、今までのようにパソコン中心で考えれば良いという見方もできますが、実はそうでもないところも幾つかあります。

  • パソコン版にあるコンテンツすべてが利用者にとって必要なものではない
  • パソコンが主軸ということで、パソコン環境であれば最高な見た目というグラフィックが多い
  • 厳格なプライオリティ付けをした上での情報設計がされていない場合がある
  • スクリーンが大きかったことから「とりあえず入れておこう」という緩さがあった
  • スクリーンに情報を埋める大きさと余裕があったので、質より量という部分もあった
  • 量が多いのでナビゲーションが複雑になり、ナビゲーションの表示領域が増えていった

パソコン版から Web サイトを作り始めても良いと思いますが、今までのように情報を盛れるだけ盛るような『緩いデザイン』はパソコンを使い続ける人にとっても負荷ですし、パソコンできちんと見れることをデザインの価値の中心に置いたままにしておくと、モバイルオンリーの利用者から離れた存在になります。今まで以上にプライオリティを重視した情報設計が必要とされていますし、利用者にとっての良いコンテンツなのかどうかの見直しもあります。

パソコンの利用がなくなることはありません(少なくとも 10 年くらいは大丈夫でしょう)。しかし、パソコンが Web アクセスの中心にあり、パソコン向けにコンテンツ作りやサイト設計をしておけば、とりあえず大丈夫だろうという先入観は持たないほうが良いのではと思っています。作り手や情報発信者側が、利用者が使うデバイスやソフトウェアを選ぶわけではありません。利用者が使いたいデバイスを使いたいタイミングで使うわけです。

今までのパソコン的なコンテンツやデザインの価値観を切り離す・・・これが出来ることで、マルチデバイス対応のスタートラインに立てるのかなと思っています。

筆者について

Photo of Yasuhisa Hasegawa

組織の一員となるスタイルで一緒にデザインに関わる課題を解決するといった仕事をするなど、チームでデザインに取り組むためのお手伝いをしています。各地でデザインに関わる様々なトピックで講師をしています。