模擬のWebから特性を活かしたWebへ

Web の可能性や特性が理解されていなかった頃は、他分野の表現を模擬していました。マルチデバイス化が進むにつれて、Web でしかできないこと、Web の特性を活かしたデザイン思考が不可欠になってきました。

WebSig 1日学校 2013

2013年10月5日に WebSig一日学校 2013 が開催されました。普通のセミナーとは異なり、廃校をリノベーションした独特の会場をつかって Web に関わる様々な分野の方が集まるイベントです。2011年も一日学校で講師をさせていただいたので、2回目の登壇になります。

WebSig一日学校は、毎回視野の広いテーマで開催されることから、日々の仕事にすぐ役立つ情報は少なめです。しかし、仕事にある制約や事情という縛りを一旦抜けて、自由に思考できる場なのが良いなと思っています。今年も1日学校の最後に開催されるワールドカフェに生徒の一員として参加しましたが、ひとりの Web の仕事に携わる人間として平等に語り合えるのは素晴らしいことだと思います。

模擬の時代の終焉

今年は「未来へ繋ぐWeb系デザイン思考」という題名で講演。作るだけでは価値がない時代に、どのように Web をデザインすれば良いのかという『心構え』のような内容です。少しずつ記事にしている WD101 シリーズ で触れた内容を踏まえつつ、Web のプロフェッショナルでしかできないコンテンツ設計について話をしました。

Web だけでなく、多くのメディア媒体は過去の知識やノウハウを模擬することから始めています。

初期のテレビ番組

例えばテレビ。

テレビの特性、テレビが得意なこと、テレビしかできないことが理解されていなかった黎明期は、ラジオを模擬することからスタートしました。当時のテレビ番組は、ラジオに絵を付けただけのような単純なものがほとんど。かえって音声だけを楽しめるラジオの良さが引き立つような番組も少なくありませんでした。

しかし、次第にテレビの特性が理解されはじめてくると、ラジオからかけ離れた独自性の高い表現や配信方法が編み出されました。今は誰もテレビのことを「絵が付いたラジオ」とは思わないはずです。

このように、多くのメディア媒体は、今普及しているメディアとそのノウハウの模擬から始め、次第に特性を十分に活かしたコミュニケーションをはじめています。書籍も写真も映画もそうです。

Web は単純に「= メディア」と表現できませんが、Web の黎明期は DTP や CD-ROM のようなマルチメディアを模擬しているという点は過去のメディアの歴史と似ていると思います。Web の可能性や特性が理解され難いからこそ、まずは『分かる』表現方法から始めたわけです。

しかし、それも変わりつつあります。

マルチデバイス化、1万以上あるスクリーンサイズにどう対応するか。最低限の体験を担保しつつ、利用者が必要としているコンテンツ、達成したいタスクにどう辿り着かせるのかという大きな課題があります。今までのデザインは「この部分は 3mm 」といった具合に、細かな数値を指定することができましたが、Web で同じようなことをすると配信経路を狭めてしまう可能性があります。非常に悩ましい課題ですが、こうした変化が、Web の特性についてもう一度向き直す良い機会を与えてくれたと思っています。

長期的視点という名の近い未来

今年の WebSig のテーマは「Re-Design」でしたが、実は Web 自体は何も変わっていないと思っています。Web の関わり方、アクセスのされ方は変化しているものの、本質・特性は変わっておらず、むしろより活かされている形状が増えてきたと感じています。私たちが「Re-Design」しなければならないのは、Web の仕事に携わっている私たちの頭の中です。模擬から始まったデザインから、いかに Web プロフェッショナルしかできないデザインへ昇華させることが課題だと思います。

講座では以下のメッセージを参加者と共有しました。

基本に戻る
今までは、DTP やマルチメディア媒体を模擬するだけで十分な Web サイトを作ることができました。しかし、今までのような真似事では Web やアプリのデザインが難しくなってきています。Web の可能性を最大限に活かすにはどのようなアプローチが必要なのか。Web の姿、本質を自分なりに考えてみてください。「自分にとっての Web は?」への応えは人それぞれですし、それで良いと思います。その価値を利用者に提供するには何をしなければならないかを考えてみることが重要だったりします。
長期的視点をもつ
特定のデバイスを使わないとアクセスできない Web サイトは、検索エンジンから見ても、利用者からみても存在しない Web サイトに等しいです。私たちは Web サイトを作るときに、下位互換性を意識していますが、未知のデバイスの互換性を今後より意識しなければならないと思います。わずか 2 年前と今を比較しても、Web へアクセスできるデバイスの数も種類も異なります。『長期的』という言葉を使っているもの、意外と近い未来のことを指しているかもしれません。デザインできる未来対応とはどのようなものか考えてみてください。

不思議に感じるかもしれませんが、これだけ目まぐるしく世の中が変わっているものの、Web の本質というはまったく変化がありません。いろいろな技術や手法が出てきては消えていますが、今でも使えるのは、Web の特性を活かした技術です。不毛に感じるかもしれない「自分なりに Web 本質を考える」という過程が、長く仕事をしていく上で重要になるはずです。

筆者について

長谷川恭久

写真:長谷川恭久Webやアプリに関わる様々な話題を取り上げた講演やワークショップをおこなっています。日本各地で講演や社内勉強会を 100 回以上の経験しています。
社内勉強会、イベントでの登壇の依頼は、メールか Twitter メッセージからお願いします。