ペルソナ設計に人間像は重要ではない理由
人間像ではなく動機や文脈を明確に
プロジェクトを本格始動する前にペルソナを設定することがあります。様々な背景の方がデザインプロセスに参加すると、何をもって『良い』と判断すれば良いのか分からなくなることがあります。ペルソナは、このプロジェクトにおいて適切な『良い』を判断する際に役立ちます。
ペルソナには「人/登場人物」という意味が含まれていることから、表層的な人間像(性別、年齢、出身地など)を描かなければいけないと考えがちです。しかし、それはペルソナを設定することにおいて、それほど重要ではないと思います。私はペルソナを1枚のシートにまとめることがありますが、見た目やライフスタイルといった属性は、詳細まで掘り下げていません。ほとんどの場合 2 〜 3 つくらいのリストにして省略しています。
代わりに「なぜ、人はプロダクトやサービスと触れ合うのか」という部分を、ペルソナを通して語るように心がけています。その理由は、人口統計学的な属性によって、達成したい目的や道筋が大きく変わることがないからです。
例えば、ある人が アマゾン へ訪れるとします。アマゾン へ訪れる理由は幾つか考えられます。
- 欲しいものが決まっているので、検索してすぐ購入する
- とりあえるレビューを読んで、検討をする
- 友達の誕生日が近いので、何か良いモノがないか見て回る
- 近所のお店で買う予定だけど、とりあえずアマゾンで見てみる
サイトへ訪れる動機は様々ですが、それが「私は 30 代前半の女性」という理由で、劇的に何か違う行動をとることはないですし、目的に応じて人格を切り替えてアマゾンへ訪れる人もいないでしょう。人口統計学的な人の属性と、行動や動機にはそれほど密接な関係はないかもしれません。
サイトへ訪れる目的は人それぞれです。それ故、人間像を設定することすら難しいことがあります。しかし、ペルソナの設定で重要なのは「誰」を対象にしていることを考えるより、「なぜ」訪問してきているのかを考える機会を与えてくれるところです。これはシナリオ作りにも同様のことが言えます。つくったペルソナがどのような経路を辿るのかを視覚化するのではなく、その人がなぜそこで立ち止まり、どう受け止めているのかを考えるツールとしてシナリオがあると考えています。
目的を理解し共有する
上図のように人がなぜサービスやプロダクトを利用しようとしているのかを 1 つのシートにまとめていきますが、読み手(ステークホルダーやチームメンバー)が理解できるような工夫をするとプラスです。人によっては、箇条書きで共感できる人間像を自分の頭の中で作り出せるひとがいます。また、物語風にして登場人物が辿る道を示したほうが分かりやすい人もいます。いずれのタイプの人でも理解できるように「なぜ」をまとめておくと、「こういう人のために何ができるのか」が共有しやすくなります。
また、ペルソナを設定した動機や、忙しい人(決定権のある人や上司)向けのダイジェストも加えておくと、あとで「これなんで、こうなったっけ?」というときに便利です。ペルソナだけではありませんが、最初に決めたことが普遍的なルールとならない場合がほとんどです。シートを作ったひとが情報のメンテナンスをするか、Wiki のような共有できる場をつくって、参加者が書き込みができるようにするのも良いでしょう。
ペルソナは、人間像を共有するものというより、デザインする製品やサービスの目的を明確にするためにあると考えています。もしそれが出来るのであれば、素敵な写真も、魅力的なインフォグラフィックも必要ありません。私は 1 シートにまとめるように心がけていますが、もっとシンプルに出来るかもしれません。「何のために作っているのかハッキリしない」「利用者像がフワっとしていて共有されていないかもしれない」というときは、一度立ち止まってペルソナを共有してみてはいかがでしょうか。