デザイナーに必要な「作る」と「考える」バランス

デザイナーの真価は、よりたくさんのものを早く作ることではなく、考えたものを作り、作ってはまた考えることができることだと思います。広い視野、小さな視野両方兼ね備えてことデザイナーですが、作ることに関わるスキルアップだけだと、どんどん視野が狭くなってしまいます。

デザイナーはコードが書けるべき?

作るだけだと失うバランス

スキルが多ければ就職のチャンスが増えるでしょうし、デザインとコードの間を取り持つためのコミュニケーションの手間も省けます。新しい技術を取り入れたデザインが考えられることで、表現の幅も広がるはずです。柔軟性、拡張性のあるデザインを作るときにコード脳が役立ちますが、デザイナー自らがコードを書く必要性はないと考えています。

小さな組織、フリーランスであればコードを書かざるを得ない状況があるので、それは仕方ありません。『書けるべき』という強い表現が、どのような状況にも当てはまるように聞こえてしまうことに疑問を感じます。また、制作スキルばかりに力を入れても、デザイナーとしてのスキルの伸びに限界がある考えています。

デザインは人によって様々な定義が出てくるややこしい言葉ですが、私の中で「作る」ことと「考える」ことの 2 つに分けています。作ることは、何か目に見えるもの、触れることができるものを作り上げること。Web サイトが作れる、アプリの UI が作れる。デザイナーであれば作れてなんぼだと思います。

もうひとつの「考える」は、作ることと表裏一体の関係にあります。何のために作るのか、なぜ作るのか、作ったものが人にどのような影響を及ぼすのかを知ることを指します。作る理由を探求し、作り上げたものが説明できるようになるために考えるわけです。また、作ったものが実際どのような効果をもたらしたのか、改善するとした何ができるかなど、作ったあと、また考えることもあります。

作ることと考えることのサイクル

近年の「デザイナーもコードを書こう」という声に違和感を感じる理由は、ここで言うデザインの「作る」側に偏り過ぎてしまって、本来同等と捉えるべき「考える」部分を後回しにしてしまう可能性があるからです。作れるデザイナーがもっと作れるデザイナーになるだけでは、周りから「この人は作る(だけの)人」という間違った印象を与えることになります。デザインに対する印象も「見た目をなんとなく整える」という枠組みからなかなか抜けられないでしょう。

考えられるようになるためのヒント

作るという行為だけ見てしまえば、機械化はどんどん進んでいますし無難なものは星の数ほどあります。デザイナーの真価は、よりたくさんのものを早く作る(納品する)ことではなく、考えたものを作り、作ってはまた考えることができることだと思います。作れるスキルに偏らず、考える部分にも『スキル投資』する。自分の「作る」「考える」のサイクルのなかでコードが書けることがプラスになれば、そのとき覚えるくらいで丁度良いと思います。

では、どのようにデザインの「考える」部分を養っていけば良いのでしょうか。おすすめ入門書はぜひチェックしていただきたいですが、以下の分野は作るスキルにも直結するので、学ぶ価値があります。これらをすべて学習・実践しましょうという意味ではなく、この中からひとつでも始めてみると、作り方が少し変わると思います。

  • 情報アーキテクチャ: ますますマルチデバイス化が進んでも、GUI が消えてしまっても、情報を扱うことに変わりはありません。今まで以上に柔軟性が求められる情報。それをどのように設計するかは大きな課題です。
  • ユーザー調査: 教科書通りのことをしなくても、知り合いに尋ねてみることも立派な調査です。自分以外の視点を知ること。言葉をそのまま受け入れるのではなく、話し手の意図を探ることは、データ分析のスキルを養うことにもなります。
  • ライティング: デザインはコンテンツの価値を増幅するためにあるわけですから、そのコンテンツについて知ることは重要です。特に文字は最も小さく、誰でもアクセスするコンテンツ。同僚やクライアントとのコミュニケーションにも役立つはずです。
  • インタラクションデザイン: アニメーションや画面遷移はコミュニケーションの手段であって、そこには必ず意図があります。その意図は何か、システムと人の間にはどのような関係が生まれているのかを探求する分野です。Web サイトやアプリに留まることなく、IoT にも関係します。

コードにも言えますが、足りなければ誰かに聞けば良いわけです。似たような論調で「デザイナーはビジネスを知るべき」みたいな話もありますが、たとえ知らなくても、分かる人と話をして、デザインという専門分野から見えている課題を共有できればそれで良いわけです。デザイナーとして「作れる」と「考える」両方で、何が必要かを見つけて実践するのが優先です。

社内にデザインチームがあれば同僚に質問すれば良いでしょうし、ひとりで仕事をしていたとしても Web 上だけでなく、オフラインのコミュニティが全国各地にあります。「作れる」と「考える」両方している人がいるだけで、自分の頭のなかで思い浮かべていた「デザイン」の見方も変わりますし、両方必要だということを肌で感じることができます。

まとめ

油絵を描くアーティストが、キャンバス、絵の具、ブラシといった素材について熟知しているように、私たちデザイナーも同じように素材は熟知することが仕事の基盤になります。そのなかで「コード」はひとつの素材として捉えることができますが、「人」や「情報」も忘れてはならない重要な素材です。「人」や「情報」という素材は、ただ作っているだけでは探求が難しい分野です。

作るという行為は良くも悪くも視野が狭くなりがちです。ひとつひとつ丁寧に作ることは時には重要ですが、戦略や目的といった全体を見失ってしまうことがあります。広い視野、小さな視野両方兼ね備えてことデザイナーですが、作ることに関わるスキルアップだけだと、どんどん視野が狭くなってしまいます。デザインはもっと広くて深いです。広さを体感することで、自身のキャリアや、仕事の進め方に新たな可能性を示してくれるはずです。

筆者について

Photo of Yasuhisa Hasegawa

組織の一員となるスタイルで一緒にデザインに関わる課題を解決するといった仕事をするなど、チームでデザインに取り組むためのお手伝いをしています。各地でデザインに関わる様々なトピックで講師をしています。