Big IA と Small IA の間で
Big になり過ぎている IA
Big IA
広義としての IA 。映画監督やオーケストラの指揮者のような存在で、製品やサービスのビジョンを形にする役割。
Small IA
狭義としてのIA。プロジェクトに関わる人々が理解できるようにビジョンの詳細を設計し、具体化していく役割。
Peter Morville 氏が 2000年に寄稿した記事 で、Big IA と Small IA に明確なラインを引かず、情報システムの構造化という IA の核心を軸にしてコラボレーションをすれば良いと説いています。実際、多くの IA プロフェッショナルは Big / Small といった分類を過剰に意識することなく、いずれの設計に携わることもありますし、UXデザイナーと呼ばれる方とコラボレーションをしている場合もあります。
こうした現状を理解しているわけですが、IA で語られる話題が Big (ビジョンの設計)に偏り過ぎていないかと感じることがあります。
今年の IA Summit 2013 のプログラム をみてみると、Big IA とも呼べるビジョンの話が大多数を占めています。ユーザーエクスペリエンス(UX)、エンゲージメント、ストーリーといったキーワードが幾つも見られるのも、IA Summit に参加する方の興味が Big IA に揺れ動いているからなのかもしれません。一昔に「Big IA は UX である」と提唱した方もいましたし、こうした傾向は IA における進化・成長の過程なのでしょう。
では次に IA が何処へ向かうのでしょうか。私が個人的に見てみたい部分は、可能性に基づいたビジョンの設計であり、ボトムアップ的な視点によるビジョンの増幅です。利用者の潜在的欲求やタッチポイントに基づいたビジョンの設計だけではなく、今ある技術で広がる世界観や表現の幅、技術に触れることで行動や認知がどう変わるのかといった部分の探求です。言い換えれば、Big や Small といったことを意識させない、今風の情報システムの構造化と設計を考えるということでしょうか。
今だから知りたい IA の核心
なぜ今そのように感じるのかは幾つか理由があります。
- 真のマルチデバイス時代が到来
- およそ 2 年前に Peter Morville 氏が Intertwined WebとユビキタスIA という講義をしました。ここで、明確な構造化が難しい複雑な世界での情報設計について話しています。今は、さらに複雑化が進み、シームレス / ユビキタスアクセスはニーズではなく必要条件になりました。
- 昨年の「妙な行動」が今年の「当たり前」になる世界
- iPhone が登場したのは 2007 年。マルチタッチという魔法のような動作。始めて見た人からは「気持ち悪い・使い難い」と言われていた操作方法も今は当たり前になりましたし、タッチを最初から期待する人も増えてきました。人は、技術に触れることで行動も認識も変化します。今だけ見ているのは十分ではないですし、技術が変える力をもつこともあります。
- 作り方の大きな変化
- Webサイト、Webアプリの作り方がここ 1, 2 年で劇的に変化しています。プロトタイプ もその変化のひとつです。IA の専門家の中で Bootstrap くらい使えないと駄目と言っている方がいるのも、今の変化に影響されてのことだと思います。この変化はビジョンを設計し、具体化していくまでのプロセスを変える力をもっているはずです。
- 進む情報システムの API 化
- ページという概念に捕われると、マルチデバイス環境での情報システムの設計が難しくなることから、API のように情報を管理するという考え方が、ここ 2, 3 年で出てきました。様々な形で情報配信できるようになった今、人の動機やタッチポイントで提示できる形状も柔軟に対応できることを意味します。
- サイトと繋がるのではなく人と繋がるという世界観
- 従来の考え方であれば、接点/ゴールとして必ずといっていいほど Web サイト又はアプリが存在していました。しかし、今は代わりに人になってる場合が増えてきました。知るキッカケが検索エンジンや Web サイトである必要もなければ、目的の達成のためにサイトにアクセスする必要もないことがあります。そのときに考えられる情報システムの姿はどんなものでしょう。
いずれの課題も、情報システムの構造化という核心について議論やノウハウを共有していくための起点になると考えています。ビジョンだけでも、詳細を設計するだけでも不十分なのは誰もが分かっていること。必要なのは定義や区分けではなく、分野や業種を跨いだ情報交換であり、実践への道筋だと思います。そのため、UX が IA の場でも議論されていたわけですが、さらに照準を広げた上で IA という専門分野に昇華していくと、面白いことになりそうです。