良いUIでも悪い体験は作れる
下図は、デジタルカードゲーム「Magic: The Gathering Arena(MTG: Arena)」の画面。現在、βテスト中なので一般公開時には大きく変わる可能性がありますが、良い UI が良いデザインになるとは限らないという例で紹介しています。
カードパックを購入するには、Gems という通貨が必要になります。ゲーム用の通貨を購入してアイテム課金するゲームは他にもたくさんあります。押しやすいボタン。分かりやすいラベル。魅力的なグラフィック。ちょっとしたアニメーションを加えた演出を見ると MTG: Arena は優れた UI デザインと捉えることができます。デジタルカードゲームを楽しみたいユーザーの気持ちを高めるデザインと言えるはずです。
魅力的な表面とは裏腹に、たくさん Gem を購入してもらうための仕掛けが隠されています。例えば 6 パック分のカード(1,200 Gems)を手に入れるために、1,600 Gems 分の課金をします。6 パックを購入したあと、残高の 400 Gems では何も買うことができません。結局、新たにパックを購入するには足りない分を課金することになるわけですが、さらに次のパックを買うには足りないので課金を続けることになります。
1度に購入できる Gems の数が幾つか用意されているものの、パックを購入後に中途半端な量の Gems が残るような数に設計されているのが分かります。たくさん Gems を購入してもらうための仕組みなのでビジネスには良いですが、ユーザーにとってはどうでしょうか。Gems という通貨を手に入れても、買い続けない限り使い物にならない余りが出てきます。
こうした仕掛けを組み込んだゲームは MTG: Arena だけではありません。むしろ、よく見かけるやり方なので「こういうもの」「当たり前」と考える方もいるでしょう。ゲーム UI は巧妙に作られており、参考になることは多々あります。しかし、魅力的な表装の裏にはデザインの闇もあります。
良い UI を作ってもユーザーにとってネガティブにはたらくデザインはあります。MTG: Arena のような課金のカラクリを魅力的な見た目で覆い隠すことができるほどデザインは大きな力をもっています。課金はビジネスモデルに関わるので、デザインの責任範囲と捉えるのは難しいかもしれません。しかし、デザインは見た目を良くする仕事だけではないとすれば、ビジネスの都合だけを考えて人の視点や理解をズラした設計することが正しいのか考えなければいけないと思います。