デザインの運用って何ですか?
公開しても終わらない
コンテンツマーケティングの文脈でコンテンツの運用という言葉を耳にすると思います。いつ、誰に、何を、どのように配信するかを決めて、複数人で実践していくには運用が欠かせません。新しいコンテンツを作り続けなければいけませんし、現存コンテンツの維持・管理も必要になります。
コンテンツの運用で「公開したらあとは待つのみ」「納品したら終わり」という考えはありません。放置するとたちまち埋もれてしまい、存在していないのと同じになります。また、利用者の趣向・動向に合わせてチューニングをしていかなければ、ますます遠い存在になります。
公開したらデザインの仕事が終わるわけではないという意味でコンテンツの運用と似ていますが、デザインの運用は以下の点を解決することを目的とします。
- コンテンツの量に依存した『固い』デザインにしない
- 基本的なことであれば短時間で実装ができる
- 誰が触っても最低限の品質が担保できる
- 一貫性のあるデザインが実装しやすくなる
- ひとりのスターデザイナーに頼り切らない
- 必要に応じて変更・改善し続けることができる
CMS を導入してコンテンツを運用していくための体制ができていたとしても、デザインがそれに追いついていない場合があります。「こんなことがしたい」という施策に対して、デザイナーがひとつひとつ手作りをしていては商機を逃すこともありますし、人手がいくらあっても足りなくなります。新着情報しか更新できなかったり、特定のデザイナーが動くまで待つという状態は避けなければいけません。
運用という考え方の切り替え
事業会社で働いていたり、内製をしている組織であれば、デザインの運用ができるように日々試行錯誤していると思います。特にアプリのようなデジタルプロダクトは、たくさんの人と一緒に開発することがほとんどです。人が加われば、開発スピードが上がるものでもなく、かえって一貫性のある体験を設計するのが難しくなります。私も経験していますが、チームの大小に関係なくひとり加わるだけで歯車が狂ってしまうこともあります。
新しい人は今までなかった視点を提供してくれたり、あるべき姿を問いただしてくれますが、今まで積み上げてきたものに悪影響を及ぼすこともあります。文脈が共有されていないまま前へ進めようとすると、製品の体験がよりバラついてきます。体験の一貫性がないと、開発スピードも損なわれるという負のサイクルが生まれます。
デザインシステムを作るのは、新しい人が入ってきた際に、今までどのように成長してきたのか『製品の文脈』を共有するのにも役立ちます。ガイドラインとしてだけではなく、新メンバーのオンボーディングにも利用できるわけです。
デザイナーに運用していくための働きかけが必要な理由として、デザイナーの中には運用という概念を必要としていなかった現場で働いている人が少なくないからです。
例えば「デザインの品質」という言葉にしてにも、運用している現場とそうでない現場では捉え方が違います。運用している現場であれば、一貫性や柔軟性の高さを品質と捉える場合が多いです。一方、運用が必要とされないものを作っている現場での品質は、見た目や動きの面白さ、作り手の意図の再現性に重きを置きがちです。
この違いが、必要とされるスキルやツール選びにも大きく影響しています。制作会社にいたデザイナーが事業会社へ転職したときに最初に飛び越えなくてはいけない壁はこうした考え方で、放置したままだとデザインの運用がとてもつまらない仕事のように思えてきます。実際、運用のことばかり考えるのではなく、コーポレート・アイデンティティやブランディングも考えて作る機会はあります。ただ、デザインを運用していくスキルを磨かなければ、周りのスピードについていくのが大変になるかもしれません。
まとめ
デザインの運用はまったく新しい考え方ではありません。しかし、今まで作りきりのものを納品していた web サイト制作ではあまり語られていなかった領域です。また、数年前は制作会社へ発注していたアプリ事業会社も内製を始めているところもあります。とは言っても、認知されているアプリでもデザイナーはひとりということもあり、デザインの運用はこれからといったところです。
デザインシステムにも言えますが、いきなり高らかな目標を掲げても気が遠くなってしまいますし、周りからの了承を得るのに時間がかかってしまいます。まずコード思考を養って、日々使っているデザインツール上で運用を意識してみてはいかがでしょうか。