Webらしいニュース配信UIとは
紙的な情報配信
新聞記事は、印刷されたらそれで終わりです。後の紙面で修正・注釈が入る場合がありますが、記事が世に出た瞬間、そのままのかたちで残ります。また、配信できるタイミングと回数が限られているので(朝・夕、時々号外)、期限までにどれだけ記事の質を高めるかが勝負になることもあると思います。新聞社の Web サイトは、こうした『新聞の性質』を強く残したまま Web コンテンツを配信しているように見えます。
カテゴリやキーワード(タグ)を活用した情報分類をするなど、 Web の特性を活かした手法を取り入れているものの、記事を集めた書庫のような存在です。以前紹介した公共施設の Web サイトと似たような状況といえるでしょう。新聞社の Web サイトの記事の特長をみると、記事の形状は、紙の時代とほぼ変わりないことが分かります。
- 配信された記事は、そのままの形で残る
- 訂正や追加情報が入る場合はあるが、別記事として配信されることがある
- キーワードで分類されているが、読者が探し回る必要がある
- 数々の記事を拾い集めて意味を見出すのは、読み手のスキル次第
印刷後は変えることができない、配信頻度も限られている紙では、記事を配信して『そのまま残す』という意味合いが強くなります。しかし、Web は残すだけでなく、常に変えることができるのが利点。また、即時性が高いので、ほぼリアルタイムで情報を配信することが可能です。最近、ニュースメディアでは、Twitter を活用して速報を配信したり、リアルタイムで情報が掲載できる画面を設けることがあります。Twitterで速報を出すべきではないという動きがあると同時に、Twitter を情報ソースとして活用するツールを開発するという動きもあります。
どのようにソーシャルメディアを扱うかは別の議論になりますが、情報の出し方、組み立て方が変化しているのが分かります。従来のように、きちんと執筆してから出すという形式から、まずは早く出して、徐々にストーリーを組み立てるという形式が生まれてきています。
変化を許すインターフェイス
こうした Web ならではの情報の出し方には、 3 つのパターンがあると考えることができます。
1. Addition
小さな情報の塊を時系列に並べるパターン。古い情報先か、新しい情報が先かはニュースの特性によって変わります。以前提案したタイムツリーのように、様々な情報をスクラップして並べるという見せ方も考えられます。
2. Stack
ひとつのテーマやキーワードに沿って幾つかの情報を一カ所にまとめるパターン。今でも自動化された画面を用意しているところはありますが、特集画面のように、ある程度整理された状態で見れる場所は少ないです。
3. Evolve
ひとつの記事を、時間をかけて徐々に充実させていくパターン。開発者であれば、Gist で文章を書くことがありますが、あとで内容を変更することができるだけでなく、誰が、何時、何を編集したかも確認することができます。
こうしたパターンが生まれることで、利用者の読者体験に大きな変化を生むことができるでしょう。今まではサイトのトップページへアクセスして興味のある情報を探し出す必要があったのが、気になる情報が見つかれば、そこへ定期的に何度もアクセスするという読み方が生まれます。「エンタメ」「テクノロジー」といった大きな枠組みではなく、「ブラジルW杯」「本日の国会」のような、小さな枠組みだけど、動きが速いニュースが追いやすくなるかもしれません。
今まで困難だった「情報を追いかける」という行為が、配信の変化によって、実現しやすくなると思います。
常に変化し続けるニュースを Addition のパターンで表現しているのが Circa というアプリ。一見、普通のニュースアプリに見えますが、掲載記事を『フォロー』することができるのが特長。フォローした記事は、情報が更新され次第知らせてくれるので、「あの出来事の後にどうなった?」というニーズに応えてくれます。時系列でニュースが残るので、ニュースがどう変化しているのかも把握しやすくなっています。
Circa とは別の見せ方で時系列でニュースを追うという形はきっとあるはず。もしかすると、メッセージのようにパッケージングしてしまうのも良いかもしれません。
Stack パターンは、オリンピックのような大きなイベントがあるとポータルサイトのような入り口として表現されていることがあります。しかし、それでは運営が難しいですし、読者が考える「追いかけたいニュース」をすべてカバーするのは困難です。
Evolve パターンは、以前から Wiki News のようなサイトがあるので、珍しい形状ではありません。Wiki のように全員で執筆するものではなく、ジャーナリストや書き手がニュースを『育てる』ことができる CMS が必要なのかもしれません。履歴機能は、多くの CMS に導入されていますが、それが読者と書き手がコントロールしやすい UI になっているのかというと、まだまだ改善の余地がありそうです。
Web は、すぐに配信できる、変化を許す媒体です。 しかし、従来の形状に合わせようとするあまり、実現されていないことがあります。又は、CMS や掲載までのワークフローが、情報の変化を考慮した設計になっていないのかもしれません。
情報によって、途中変更どころか修正すら許さないものもあると思いますが、それも尊重しなければいけません。ニュースは、形状だけでなく配信の仕方も様々です。ひとつの「記事」という形に閉じ込めてしまうのではなく、ニュースの特性に合わせて形状と配信形態を選ぶことができると、読者との距離が少し縮まるでしょうし、よりニュースが自由な存在になると思います。