AIにルールではなく視点を渡す Decision DNA

AIにルールではなく視点を渡す Decision DNA

デザインにあるルールやパターンマッチでもない、視点をもたせた AI ワークフローがあります。

AIを使ってデザインするとき、まずルールを書くところから始める方もいると思います。チェックリストを作るり、「こうなったらNG」が分かるガードレールを用意する、「プライマリーボタンは画面に一つ」のような原則を並べて、そこから外れないようにする。それ自体は悪いアプローチではありませんが、私たちデザイナーがものを作るときの判断は、おそらくそういうふうには動いていないのではないでしょうか。

デザインの判断は「ここを抑えていたらいかなる場合でも正解」とは言い切れず、文脈で変わります。同じECサイトでもターゲットが違えば必要な情報量が変わりますし、ある施策では正解だったデザインが、別の状況では通用しないことも珍しくありません。

文脈で正解が変わるという現実

デザインだけでなくヒューリスティック評価にも同様のことが言えます。専門家が同じ画面を見ても、見つける問題が一致する割合はわずか 27% と言われています。調査によって数値は前後しますが、誰もが同じように評価できるわけではないことが分かります。知識や経験が違うだけでなく、対象のデザインの目的やユーザーの文脈をどれだけ理解しているかどうかで、評価そのものが変わります。

How Large Is the Evaluator Effect in Usability Testing? – MeasuringU

今のAIプロンプトの多くは「どこが正解でどこが間違いか」を明確に定義し、間違わない方向へ誘導する作り方です。しかし、デザインのように視点によって正解がグラデーションのように変わる領域では、そのアプローチだけでは足りません。評価者がどんな視点でものごとを捉え、それがどう結果に結びついているのかを理解しなければ、チェックリストをなぞるだけの表面的な出力になってしまいます。

ルールは縛る 視点は導く

ルールからパターンへ、パターンから視点へ

デザインを始めた頃のことを思い出すと、最初は四大原則 、余白、コントラスト比といったルールに沿って作っていたはずです。ルール通りにアプローチするのは、生物の知性の進化に捉えると、初期段階に近いです。光が来たら近づく、危険だったら逃げる。シンプルで確実ですが、想定外の状況には対応できません。

デザイナーとして経験を積み重ねると、パターンを覚え始めます。このレイアウトはこういう場面に向いている、このUIパターンはこのユーザー層に効く。うまくいった行動を繰り返し、失敗を避けながら少しずつ賢くなっていく。生物の進化でいえば強化学習の段階です。

ただ、デザイナーには一段先の成長があります。文脈を理解し、判断を微調整する力。作る前から「このユーザーがこの画面を見たら、おそらくこう感じるだろう」と頭の中でシミュレーションできる能力です。これはルールでもなく、パターンマッチでもない。視点を持っているということを意味します。

この視点を、AIにもインストールできるのではないか。そう考えて作ったのが Decision DNA です。 Decision DNAは4つの要素で構成されています。

  • 文脈 : 誰のための判断なのかを定義する要素です。評価する前に「誰にとっての正解を探すのか」を明確にしなければ、出力はどうしても一般論になります。
  • 認知 :デザインの問題をどう分解するかをインストールする要素。同じ画面でも何を塊として捉え、何を分けて捉えるかで問題の見え方が変わります。
  • 較正 :見つけた問題の重さを文脈で調整する要素。同じ問題でも、誰にとっての問題かで深刻度が変わる。この重み付けを状況に応じて調整できる力をもたせます。
  • 明文化 :AIがどういう判断で、どのようにしてその出力に至ったのかを記録するようにします。この記録を基に Decision DNAを改善を繰り返していきます。

ヒューリスティック評価で試してみた

この Decision DNA を組み込んだヒューリスティック評価のワークフローを実際に運用し始めています。全体を指示するディレクターが、評価対象のサイトに対して注意すべき点を整理し、それぞれ異なる視点を持たせた5人の評価者にタスクをアサインします。同じことを繰り返すのではなく、異なる視点を持った評価者がそれぞれ独立して評価し、その結果をもとにディレクターがレポートを整理します。

ヒューリスティック評価ワークフロー

レポートも評価者が指摘した要素の多数決ではなく、与えられた課題や文脈に応じて評価を微調整した上で最終レポートを出す仕組みにしています。こうした考慮もただチェックリストだけでは難しいアプローチです。

評価が終わった後には、個々の評価者がどのような視点で、どういう順番でものごとを捉えて出力したのかをチェックしています。その傾向から見えてきた改善点を次のワークフローに還元する。明文化の仕組みがあらかじめ作られているからこそ、ワークフロー自体を少しずつ改善しています。

Decision DNAなしで「ヒューリスティック評価をしてください」と頼んだ出力は、「認知負荷がかかる」といった無難な文章を出力してしまいます。誰にとって、どんな状況で認知負荷がかかるのかがわからない。一方、Decision DNAを組み込んだ評価では「複数のタブで比較購買を行うユーザーは、計算を各商品ページで繰り返す必要がある」というように、文脈を考慮した具体的な指摘が出てきます。

また、評価の重み付けにも差が出てきます。シンプルなプロンプトでは「今すぐ買う」ボタンの誤操作リスクを一律に「中」と評価しますが、Decision DNAでは「有料会員は配送パターンに慣れているため影響は軽減される」という文脈を考慮した上で重要度を判断します。誰にとっての問題かが明示されるため、対応の優先順位がつけやすくなっています。

レポートのスクリーンショット

発見数も6件と18件で3倍の差があります(Decision DNA 版はアクセシビリティレポート付)。ただ多ければ良いわけではなく、各問題に信頼度、一致度、判断根拠のログが残っていることが重要な点です。これにより「なぜこの評価になったのか」が追跡可能になり、次の評価で視点そのものを改善できるようになっています。

最初の一行を書いてみる

次にデザインを作ったとき、なぜそれを選んだのか——一文でもいいので書き出してみてください。2つか3つ案を出してその中から選んだ理由は、おそらくルールや原則だけでは説明できないはずです。状況の制約かもしれませんし、ユーザーの文脈かもしれません。重み付けの違いかもしれません。

その一行が、自分だけの Decision DNA を作っていく最初の一歩になるはずです。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。