AIとの対話が変える思考プロセス

間違っていても自信を持って発言するAIには注意が必要ですが、これはあくまで「正しい回答」を求める使い方をしているときに問題となるものだと思います。

AIとの対話が変える思考プロセス

「仕事がAIに奪われるのではなく、AIを活用した人が活躍する」といったフレーズを耳にしたことがある方も多いと思います。最近リリースされたOpenAIの新しい画像生成機能をはじめ、さまざまなツールを活用している人も増えてきました。単に使ってみるだけでも楽しいものですし、使わなければインスピレーションが湧かないこともあります。

しかし、「活用する」とは具体的にどういうことでしょうか。機能の使い方やプロンプトの工夫の仕方を学ぶことなのでしょうか。AIが出力した内容をそのままコピペするだけでも、「活用している」と言えなくはありません。ただ、それで本当に価値を生み出せているのか、改めて考える必要があるかもしれません。

AIとの関係性を再定義する

多くの人が陥りがちなのは、AIを単なる「ツール」として扱うことです。質問を入力して答えを得て、それをそのまま使う。このような関係性では、AIの真の可能性を引き出すことはできません。

たとえば、この記事のような内容をAIに指示すれば、たしかに何かしらの文章は出力されます。ただ、それを読んでもどこか物足りなさを感じたり、ありきたりだったり、自分の言葉としてしっくりこないと感じることが多いのではないでしょうか。デザインのコンセプト作りやユーザーリサーチの分析でも同じようなことが起こります。AIは瞬時にそれらしい「答えのようなもの」を出してくれますが、何かが欠けているように思えます。

生成AIの落とし穴は、それを検索エンジンのように使ってしまうことです。キーワードを入力すれば、検索結果のように答えが返ってくると捉えてしまうと、AIのポテンシャルを十分に引き出すことができませんし、それを「活用している」とは言い切れないかもしれません。また、プロンプトを工夫したり、さまざまな機能を使いこなして答えを引き出すこと自体も、本質的な活用とは言えないでしょう。

では、AIをもっと活用するには、どのように使えばよいのでしょうか。

コラボレーターとしてのAI活用法

AIを検索のような回答ツールではなく、対話的なパートナーとして活用することで良い効果が生まれることが、Harvard Business Schoolの研究で明らかになりました。2025年に発表された「The Cybernetic Teammate」の研究では、AIを活用した個人が、AIを使わない2人チームと同等の成果を出せることが実証されました。つまり、適切に活用すれば、AIは文字通り「もう一人のチームメイト(コラボレーター)」と同じ価値を生み出すことができます。

The Cybernetic Teammate: A Field Experiment on Generative AI Reshaping Teamwork and Expertise - Working Paper - Faculty & Research - Harvard Business School

この研究では、Procter & Gamble(P&G)の従業員776人を対象に行われました。AIを効果的に活用した参加者たちは、単に質問を入力して結果をコピペするのではなく、10回、20回と繰り返しプロンプトを投げかける対話的なプロセスを実践していました。彼らはタスクや制約を丁寧に説明し、AIの回答を批判的に検討しながら、自分の専門知識と組み合わせて改良していったそうです。

また、AIの活用によって職域を超えたアイデアが生まれやすくなることも、研究から明らかになりました。たとえば、R&Dの専門家はより商業的な視点を持った提案を、商業寄りの職種の人はより技術的な視点を含む解決策を提示する傾向が見られました。

この研究結果は私自身のAI活用経験とも重なります。実は、この記事も AI との対話(音声チャット)が基になっています。「なぜAIの出力に満足してしまうのか」「なぜコピペでも良いと思ってしまうのか」「私たちはAI以前から、本当に熟考し、提案や行動をしていたのか」といった疑問を投げかけたり、逆に質問を受けたりしながら、自分の考えを整理していきました。あえて批判的な意見も出すようにAIに指示することで、自分では気づけなかった視点に出会えることもあります。漠然としてつかみどころのなかったアイデアが、会話を通じて少しずつ明確になっていく感覚がありました。

今でも要約はあまりAIに頼っていないものの、読み物から生まれたアイデアを発散させたり、他の人には聞きにくい「ぶっちゃけどうなの?」といった問いを投げかけることで、考えを深める場面があります。「しっかり考えましょう」といきなり言われても難しいものですが、AIがその初速を助けてくれることはよくあります。自分でうまく質問を出せないときには、「回答後に深掘りするための質問を3つ提案して」とAIに頼んでいたこともありました。

頭の中がモヤモヤしているときに話しかけるだけでも驚くほど整理できることがあります。ときどき脈略もないことを AI に話しかけることがありますが、きちんとまとめて回答してくると「確かにそうかも」と思うことがあります。頭の中にしまい込んでアウトプットできない頃に比べると大きな違いです。

ハルシネーションを起こす、間違っていても自信を持って発言するAIには注意が必要です。ただし、これはあくまで「正しい回答」を求める使い方をしているときに問題となるものだと思います。今の生成AIのポテンシャルを最大限に引き出すには、壁打ちの相手として使うことが、最適な付き合い方であり、活用方法なのではないかと感じています。AIは今後も進化し続けますが、最終的には自分の視点で内容を整理し、自分の言葉や表現でアウトプットすることこそが、本当の意味での「AI活用」なのかもしれません。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。