15年前の記事が教えてくれるWebの本質
2000年4月7日「A Dao of Web Design」という記事が A List Apart で公開されました(日本語訳)。今年は公開から 15 年経ったということで、Web 開発・設計の著名人がコメントを寄せた記念記事も配信されています。道教の教えを基に Web デザインの本質を説いたこの記事は、私も大きな影響を受けています。
2000年は、今では信じられないような状況でした。Web ブラウザが独自のタグを当たり前のように実装。<table> をつかってピクセルパーフェクトな固定レイアウトの全盛期でした。もちろん、マルチデバイスの世界ではなく、パソコンが中心です。せいぜい Windows と Macintosh の違いに頭を悩ませるくらいでした。CSS レイアウトで制作することが大事件だった頃に、「柔軟で適応力のあるデザインが必要である」という「A Dao of Web Design」のメッセージは理想論のように見ていた読者もいました。
ずっと変わらないもの
しかし、15 年経った今、柔軟性のある設計にすることは必須になりました。テクノロジーや手法は変わり続けていますが、15 年前に書かれたことが今でも通用するのは、Web の特性はまったく変化していないことを意味しています。むしろ、より Web の特性が活かせる時代になったと言えるでしょう。
では、Web の特性とは何なのでしょう。それは記事にも書かれていますが、以下の 3 点だと考えています。
- 様々な形状にも耐えられる柔軟性
- ニーズに合わせることができる適応力
- 文脈によって最適化できるカスタマイズ性
デザイナーの考える世界を 1 ミリもズラすことなく相手に伝えるのがデザインであるならば、Web の特性は「制約」「限界」と捉えてしまうでしょう。しかし、コントールを主体としたデザインがデザインのすべてではありません。上記の特性を「可能性」「強み」と捉えるならば、Web デザインで何をしなければいけないのか見えてくるはずです。
Web デザインの基本を紹介するシリーズ WD101 で一貫としているテーマは正にそこで、従来のデザインの枠組みから抜け出すためのヒントになればと思い、書きました。Web を Web ブラウザで見るという時代は終わるかもしれませんが、Web コンテンツへのアクセスは続くでしょうし、そのときに意識しなければならない設計思想は今後も変わらないはずです。
今後のWebデザインの課題
ハードウェア、ソフトウェアがより多彩になるということは、利用者のアクセスの仕方も千差万別になります。こうした中、どのようにデザインするのかは大きな課題になります。構造化した文書を作れば、未知のデバイスでもアクセスできるサイトにはなりますが、これだけではブランドメッセージも伝わらなければ、印象に残ることもありません。設計としてのデザインでは不十分で、ビジュアルのデザインも同じくらい重要なわけです。
とはいうものの、今のような環境で一定の水準を保ったビジュアルデザインを提供し続けるのは簡単なことではありません。柔軟性を重視するあまりに、印象に残らないサイトも増えてきました。例えばスタートアップの Web サイトを幾つか見ていると、どれも同じに見えてきます(出回っているフレームワークをそのまま使っている可能性がありますが)。
ようやく Web の特性を理解したデザインが必要な時代がきたものの、その特性を最大限に活かしたデザインは、これからなのかもしれません。SVG や Web フォントが使える土壌が整ってきたのも、これらの変化の前触れといえるでしょう。模擬のWebから特性を活かしたWebへと変わっていくわけです。
Web 関連の情報は 1 年も経てば古くなりますが、「A Dao of Web Design」は今でも通用しますし、今だからこそ共感できるところもあるはずです。まだ読んだことがない方はぜひ、一読してください。