ポストPC時代のWebで注目している2014年のキーワード

タブレットの販売台数が PC を超えた 2013年第四半期。(スマートフォンは 2011 年で超えています)。スマートフォンやタブレットはもちろん、情報へアクセスするための『ガラス』は、今後ますます増えていきます。2014年は、Web へアクセスするための手段が文字通り多様になるといっても過言ではありません。iPhone をはじめとするマルチタッチのスマートフォンが出回りはじめた頃は『モバイル Web』という言葉が用いられていましたが、これからは『The Web(これが Web)』と言い換えたほうが良いでしょう。PC がなくなることはありませんが、「まずはパソコン版を前提」という考え方はいちはやく拭い去らないといけなくなります。

Withings Aura自動的に取得した睡眠のデータを、いつでもアクセスできるようにしてくれる Withings Aura

いつでも、どこでも自分の好きなデバイスから、サービスを受けることが出来るようになった現在。消費者はどこへ向かうのでしょうか。そして、Web を利活用するためのお手伝いをする仕事をしている私たちは何に注目すれば良いのでしょうか。今回は 2014 年の始めの記事ということで、注目しておきたいキーワードを 2 つ紹介します。

気分良くあれ

「欲しいから買う」というわけではないのが、今の消費者の心理。自分の買っている製品やサービスが、自分や家族の健康、社会、環境にどのような影響を及ぼしているのかが気になっています。また、消費者は企業に対して環境への配慮を求めています。昨年、透明性をキーワードに掲げましたが、今年はそれをさらに進めた形になるでしょう。透明化によって気分良く製品やサービスを利用してもらうには何が必要でしょうか。

情報の開示はもちろんですが、それだけでは十分ではありません。消費者が求めているのは、企業が環境や社会を意識してビジネスをしていることを証明するデータではなく、理解できるストーリーであり、自分もその一部である(貢献している)と思えることです。

Nudie Jeans では、中古のジーンズを様々な形でリサイクル販売しています。製造環境や、素材に関する情報は、記事・動画・インフォグラフィックなど様々な形式でアクセスすることができます。また、RUG のように、リサイクルからまったく新しいプレミアム製品を生み出すという試みもおこなっています。

NIKE が昨年リリースした Making of Making も良い例です。NIKE 製品で使われている素材が、社会や環境にどのようなインパクトがあるのか知ることができますが、プロダクトデザイナーが素材を選ぶ際に利用できるアプリになっています。単なる情報の開示ではなく、プロダクトデザイナーが賢い選択ができるようにするためのツールを提供しているわけです。

気分良く製品やサービスを利用するには『エコ』という言葉が欠かせない時期がありました。今は『スマート(賢い)』へ移り変わっているような気がしています。賢い選択をするための情報を求めていますし、自分自身が賢い選択をしたと思える「何か」を求めていると思います。自分が賢い選択をして、賢く利活用していることが、「気分良い」という心理に繋がるのかもしれません。

データ & マインド

昨年 Adobe がおこなったオンライン広告に関する調査(PDF)によると、82% の消費者は企業は個人情報を収集し過ぎていると応えています。昨年も個人情報が漏れたという事件が多発しただけでなく、個人情報が漏れたことによる人と人とのトラブルも少なくありませんでした。今は ID は永続的に保持するものではなく、使い捨てであるという考えも増えてきています。SnapChat をはじめとした、期間限定の情報共有サービスが増えているのも、プライバシーへの考え方の変化からかもしれません。

ビックデータ、データマイニングといった言葉を頻繁に耳にした 2012 年と 2013 年。膨大なデータから意味を探し出す仕事は今後も必要とされているものの、データを隠す(見えなくする)という動きも活発になることから、データ解析の仕方も変わるはず。消費者のプライバシーの考え方の変化から、必要なデータを収集するのが難しくなるだけでなく、過剰なデータ解析やターゲティング広告が、企業への信頼を失うことになるかもしれません。

たくさんのデータを取らない(取れない)のであれば、小さな規模でテストをしたり、インタビューや観察から素早く行動することが今後ますます重要になります。Localytics や、TrueLens は、マーケティングの要素が強いですが、小さなデータを基にして行動するためのツールといえると思います。デザインでも昔から ゲリラユーザビリティテスト は有効(かつ経済的)な手段だといわれています。また、日々の観察を記録するのも、データから見識を示す際に役立ちます。

小さなデータから次のアクションを見つけ出す能力。そして、それを素早く実行するためのワークフローの構築は、多様化する Web アクセスへの対応のために不可欠でしょう。


キーワードから見出せる課題

では、これらのキーワードから、私たちはどのように仕事へ繋げることができるのでしょうか。幾つかの可能性を見出すことができます。

  • 消費者にとって「気分の良い」とはどういうことなのかを調査・提案する
  • 「気分の良い」を生み出すコンテンツはあるのか?それとも作る必要があるのか
  • 消費者が気分を向上(助長)される UI デザインや演出はなにか
  • 気分が良い消費者はどのように人に伝えるのか。伝えやすいコンテンツに設計されているか
  • 消費者が気分が良くなっていることを示すための指標はあるか。何をゴールにするか
  • 指標をテストする方法はあるのか。それを評価するための基準はあるか
  • データはどのように共有されているか。そのデータに対して意見を出し合える場はあるか
  • データを基に行動に移すためのワークフローはどうか。早く動くためのチューンナップは必要か
  • 勉強会やミートアップなど、消費者の『今』を共有するための場はあるか

今は「これは私の仕事ではない」と言えない時期だと思います。今までの役職や仕事の定義は PC 時代の枠組みでの話。それが変わりはじめている今だからこそ、従来の枠組みに捕われず、Web を通して人は何が必要で、何処をテコ入れしないといけないかを考えてみてください。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。