レスポンシブとか、そういうことの前に

レスポンシブWebデザインに関する話題を見渡すと、そこまで気にして実装を踏みとどまる必要ってあるのかな?と思うことがあります。

もちろん、レスポンシブWebデザインがパーフェクトなソリューションではありません。しかし、Webにおいてパーフェクトなソリューションが存在するのでしょうか。簡単に作れるツールがないから。古いブラウザへの対応が困難だから。レスポンシブに画像を対応するための最適な方法がないから。実装をしないための理由はいくらでも作ることができますが、実装しない理由は、スマートフォン専用サイトを作ることでも、CSSレイアウトにすることでも、たくさん並べることができます。

Webは完璧な世界ではありません。そして、完璧な世界が訪れることを期待してはいけない場でもあります。予測不可能な世界であり、すぐに新しいものスタンダードになる世界。不完全でありながらも、進化を繰り返すのが Web です。Webが不完全であるのと同じように、ソリューションも不完全なものばかりです(普及しているものであっても)。

完璧/成熟していないから、実装しない。最適な方法がないから作らない・・・こうした考えを持ち続けていると、Webでは何もできなくなります。
全く何もしないのか。それとも不完全ではあるものの利用者に最低限のコンテンツを提供することができるのか。この2つに1つだと思います。利用者にとっては、何もないよりかは、何かがあることのほうが重要だったりします。

レスポンシブWebデザインを実装するとなると、パフォーマンス、リクエスト数、ファイルサイズなど様々な課題にぶつかると思います。また、デバイスによってはメモリの消費量も気にしなければいけなくなります。こうした数々の課題に挑戦・解決していくのが、デベロッパーとしての腕の見せ所ですし、デザイナーも、こうした課題を考慮したビジュアルの解を見つけることがミッションだったりします。もし、解を見つけるプロセスの中で、最適なものが見つからなかった、実装が難しいと判断したからといって、完全に諦めてしまう必要はないと思います。

ファイルサイズが小さいレスポンシブ画像を生成する方法が見つからないから、レスポンシブWebデザインにしない・・・という考えになることはありません。まずは実装してみることが重要であり、少しの対応から始めることが利用者にとっても作り手にとってもプラスになると思います。

ファイルサイズが大きくなるかもしれません。パフォーマンスも最適ではないかもしれません。しかし、操作が細かくて情報過多なパソコン向けのサイトはなく、指で気軽に動かせる Webサイトを提供できていることには変わりありません。100%適応されたものではなくても、20%, 40% だったしても、0% とは大きな差があります。

モバイルコンテキストの見分け方と注意点」でも書きましたが、そもそもモバイル機器を使っているからといって、常に回線が細くて、ながら作業をしているとは限らないわけです。レスポンシブWebデザインはモバイル対応と引き合いにとられることもあり、そこでファイルサイズの軽量化の話に続く場合があるものの、回線が細く移動中に使うというシチュエーションは、モバイル機器の使い方の一部であり、すべてではありません。つまり、ファイルサイズが大きいままの画像を使ったレスポンシブWebサイトが、モバイル対応をきちんと行っていないとは言い切れないわけです。

ちょっと重たいサイトより、アクセス拒否したり、勝手にリダイレクトしたり、アプリのダウンロードを強要するほうが、もっと不親切ではないでしょうか。

作り手にとっても、まずは作ってみることは重要です。私自身、Beyond IE Six みたいな小さなサイトを作るだけでも様々なことを学びました(Ratina対応やスクリプトの読み込みの振り分けなど)。いきなり様々なことを覚えるより、経験を通して少しずつ学んだほうが、より対応が早くなります。恐らく、1年くらい経てば、レスポンシブWebデザインはより成熟した存在になるはずです。そのときに一気に覚えるよりかは、試行錯誤されている今の流れに乗りながら、少しずつ進んだ方が学習コストも低いでしょう。常に進化し続ける Web と一緒に自分も行動してみるというスタイルの方が、Webから見て『自然』なのかもしれません。

新しい言葉や手法が生まれては消えていくように見える Web ですが、根本的なところは繋がっているので、学習して損することは少ないと思います。レスポンシブWebデザインにしても、CSSの知識がなければ作れないのと同じように、レスポンシブWebデザインを今学んでおくことで、別の何かに繋がるでしょう。

今回は、レスポンシブWebデザインを話題にして書きましたが、これは Web デザイン全般にいえることだと思います。完璧、完全、スタンダード、メジャーなもの・・・そういったものを待っている間に、Webは不完全な状態のまま次のステージへ進んでいきます。ファイルサイズやパフォーマンスは大した問題ではない、と言っているわけではありません。大変重要な課題ですし、高いパフォーマンスから得られる恩恵は計り知れません。しかし、完璧な対応方法がないから止めてしまうことではありません。不完全でも、ひとつずつ前に進んで作り続けることが自身にとっても、クライアントにとっても、利用者にとってもプラスに働くはずです。

まずはやってみる。100を目指すのではなく、1を積み上げていくことが、めまぐるしく変わる時代に必要とされる思考ではないかと思います。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。