クリエイティブとデータの間にあるもの
危ういバランス
Webサイト制作でも、アプリの開発でも、いつも気にしているのがデータとクリエイティブのバランスです。この 2 つの理解が、デザインには不可欠だと考えています。いずれも「重要」と言われていますが、企業の規模や、文化によって重きを置くバランスが異なると思います。
- データを重要視する企業
- 成熟したプロダクトやサービスをもつ企業。エンジニア文化が浸透しているところや、営業の力が強いところ。
- クリエティブを重要視する企業
- 発展途上のプロダクトやサービスをもつ企業。起業家の文化や、戦略としてのデザインに強く感心があるところ。
Google Analytics のようなツールを使えば手軽にデータを解析できるようになりましたし、A/Bテストをするのも難しいことではありません。データから最適だと思われる改善策を提案することができますし、とても説得力のあるように見えます。講演で「数字はストレートで分かりやすいから、多くの人に理解してもらえる」と話すことがありますが、すべてを数字が語るがままに動けば良いとは考えていません。データに頼りすぎることは41種類の青色を試すというデザイナーを殺すような行為にも繋がりかねないからです。また、テストや数値に頼り過ぎることで、新しいアイデアや戦略を試すことを許さない文化になることがあります。
しかし、だからといってクリエイティブにフォーカスし過ぎることも問題に繋がります。クリエティブや大きなアイデアは、少し神秘的で素晴らしいことのようにみえます。しかし、そればかりだとリスクへの拒否反応が大きくなる可能性があるだけでなく、「ただなんとなく」「わたしは好きだから」という独断と偏見によってプロジェクトが進んでしまうことがあります。失敗要因や改善できるところも見つかり難くなるので、「おまえが悪い」という安易な結論に至る可能性もあります。
デザインを科学する
データとクリエティブは両極の存在のようにみえます。この 2 つのバランスを考えるに苦労されている方も少なくないと思います。私も苦労していますが、以下のようなところに気をつけています。
1. 判断するための基準をつくる
データ解析をする際の評価基準を築くのはもちろんですが、それだけでは十分ではありません。チームとして、企業としてどうありたいのかという漠然なイメージも言語化することで「これは我々にとって適切なのか」という議論をするためのキッカケをつくってくれます。個々の好みで決まらないようにするために役立つだけでなく、利用者・顧客にとっての価値について考えやすくなります。
Webサイトの核をデザインするための最初の一歩でも話しましたが、「なぜ」を突き詰め言語化することで、数字だけでは見え難いコンテンツやデザインの品質チェックができるようになります。言葉を出し合ったり、Pinterest のような場でムードボードをつくるのも手段です。
2. データを基にしたクリエティブを推奨する
データもクリエティブも重要であれば、両方とも取り入れる機会を増やすのが近道です。データを尊重しつつ、そこから利用者のシーンを描き、改善案を出せるような場をもつことです。以下のような段階をきちんと踏む必要はありませんが、科学的方法をデザインプロセスに取り込むことができます。
- 問題定義をする
- 原因の仮説を立てる
- 仮説を基に何ができるかを考える
- アイデアを形にして実験してみる
- 実験を検証し、洗練させるか別のアイデアを考える
- 結果を共有する
こうした科学的方法は 2 人以上で話し合う機会を作らないと、クリエイティブの幅を狭めることにもなりかねません。データを尊重しているというより、データに従った考えになる危険性があるからです。特に、3 のアイデアを考える段階と、6 の結果を共有する部分が重要で、データによる『壁』に閉じ込められないように会話を進めることができる役割の人が必要になるでしょう。
あなたの環境で適切なバランスを
デザイナーのアイデアも、利用者からの無言の声(データ)も重要です。だからこそ両方とも必要なのですが、企業の成熟度、文化、携わっているプロジェクトによって『正しいバランス』が異なります。気をつけたいのは、バランスをどこに置くかではなく、いずれかの方向へ振り切ってしまうことを防ぐことです。データでもクリエイティブでも片方に振り切ってしまうことで、自分の都合に合った解釈になってしまい、全体を見失う可能性があるからです。
リーダーシップや組織のあり方以前に、個々が視野を広げることから始まると思います。クリエイティブに関わる仕事をしている人であれば、少しでもデータに触れる機会を作り、データに関わる仕事をしている方は、無言語になりがちな感覚を言語化するための模索することになるでしょう。