文化の違いで変わるデザインアプローチ
文化を測る5つの指標
世代・経験値・背景によって価値観は異なりますし、時が経つにつれて次第に受け入れることができるものがあります。価値観が変わることがあるものの、根底にはその人が住んでいる国や地域の文化の影響を受けていることは少なくありません。前回「日本的なUXの解釈とは」で国が違えば良い体験の解釈の違いがあるのではと仮説しました。それを見分ける項目のひとつとして文化を挙げたわけですが、既にある文化を測定するための指標に注目することで日本ならではの良い体験の価値観を見つけることができるかもしれません。
社会学者のGeert Hofstedeは、IBMで研究していた1967年から1973年にかけて 70 カ国の従業員から様々なデータを収集。そのデータから生まれたパターンを「Cultural Dimension (文化の範囲)」名付け、5つの指標から文化測定ができると提唱しています。その5つの指標は以下のとおり。
- 力の距離感 (Power Distance)
- 権力が限られた少人数に集中しているのか、それともより多くの人に分散されているのか。例えば階層式構造なのか、フラット構造なのかの違い。
- 個人主義 vs. 集産主義
- 個人がどれだけ特定のグループに属していると感じているかどうか。
- 男性らしさ vs. 女性らしさ
- 役割が性別を超えてどれだけ割り振られているかどうか。役割や価値観が性別と結びつけられているかどうか。
- 不明確への回避率
- 不明確であいまいな価値にどれだけ寛容的かどうか。不明確への回避率が高いと社会では明確なルール付けをする傾向がある。
- 長期 vs 短期的志向
- 長期的志向の場合は、持続性や忍耐、ステータスが人間関係の基準にあります。短期的志向では、個人の安定性を重んじる傾向にあります。「顔を立てる」という考え方は典型的な短期的志向。
今でもこの指標を基にした研究は続けられており、データをコンサルティング会社 Itim のサイトで確認することができます。残念ながら何年のデータにアクセスしているのか分からないのですが、2カ国のデータをグラフにまとめて比較することが出来るようになっています。試しに日本とアメリカを比較してみたところ以下の結果が出ました。
力の距離感はそれほど変わらないですが、日本はアメリカに比べて集産主義であり、男性的。不確実さを好まず、長期的思考をするということが分かります。特に違うのが集産主義、不確実さ、長期的志向の3項目。日本は短期的志向だと思いましたが、終身雇用制度が根強く残っていますし「とにかく必死にがんばる」みたいな考え方もあるので大きくズレているわけではなさそうです。では、これらの違いがデザインにどのように影響するのでしょうか。
個人主義 vs. 集産主義で異なるアプローチ
数年前から使われるようになった「ライフハック」という言葉。ライフハックは個人の目的を達成するためのノウハウが多く、中には今までの概念から外れたアプローチも少なくありません。自己啓発的で自分の表現を重んじるライフハックの考え方が個人主義が発達している欧米から広がったのも納得です。
議論を呼ぶような話題でも良いものは良いと判断するのが個人主義。逆に集産主義は議論を好まずコンセンサス(和)が最も重要であると考える傾向にあります。個人ではなくグループが平等で調和がとれていることが重要なので、サークルやグループをつくったり、そのグループ内をきちんとサポートしているということが大切だと感じます。個人が飛び出ることがあるものの、グループという単位を重んじており、それぞれが独自の文化圏で対話しているサービスが日本に多いと思います。
集産主義という視点からデザインをどう落とし込むのか考えるとすると、以下の項目が挙がります。
- 少数個人だけよくなるものより、皆でよくなるイメージ
- サークル、コミュニティ、グループなど何かの集まりがあるような雰囲気
- そこにいる居心地のよさを演出
- 守られている、保証されている
- 奇抜で挑戦的なものより、他にもあるけどちょっと違う
色、書体、レイアウトを考えるとき「親しみやすさ」を重視するのは、多少なりとも集産主義が影響している可能性があります。サービス展開を考える上でも、グループ内の連帯感やターゲットにしている人たちにとって心地の良い対話の仕方を見つけることが重要になる場合があります。逆にある一定まで成長してもブレークスルーしにくいサービスは、グループ内にいる人たちの心地よさが独特の進化を遂げ、一般の方が考える「親しみやすいさ」の感覚から少し離れたからかもしれません。
「不確実さ」「長期的志向」を取り上げている後半記事が読みたい方は「文化の違いで変わるデザインアプローチ[後編]」をご覧ください。
Photo is taken by See-ming Lee.