データ中心になると忘れがちな直感の重要性
データだけでは答えは導き出せない
チームで工程を進めていく上で、何か根拠のようなものが求められます。そこで、デザインやコンテンツの定量・定性調査は欠かすことができません。「これは本当に使いやすいのか」「集客できるのか」「儲かるのか」といった様々な声に対して応えなければならない状況があります。
最近は解析ツールの発展や A/B テストのような模索がしやすくなったことで、データ収集の敷居が下がりました。そして、データを基に実践するための『プロセス』や『フレームワーク』も幾つかあります。しかし、周りが納得するための十分なデータと、確立した手法を用いてプロジェクトを進めれば成功が約束されるのかといえばそうではありません。
以前、ポッドキャストのリスナーから「UXデザインプロセスを実践しても失敗することはあるのか?」という質問がありました。確立されたプロセスは、失敗する可能性を低くすることはできますが、成功への近道ではありません。
これは、データにも同じようなことが言えます。数値として表すことができるので、いかにも確固なる事実のように見えますが、必ずしもそうではないと考えています。データは考える上で価値のあるものですし、データがあるからこそゴールや課題への理解が深まります。しかし、人間の代わりに決断してくれるわけではありません。
調査を経験すると、どれだけデータを集めても 100% の自信に繋がるわけではないということに気づきます。だから調査をする意味がないというわけではなく、どこかで「いけそうだから、やってみよう」と直感を働かせるタイミングがあると思います。
直感を磨くためにできること
マルコム・グラッドウェル の著書『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』は、直感が本質を見抜いていることを幾つかの事例を通して紹介しています。書籍を読むと分かりますが、直感は最初に思いついた『ヒラメキ』が常に正しいと説明しているのではなく、知識と経験が直感を養うために重要としています。つまり、定量・定性調査で出されたデータは、直感を養うためには欠かせないことを示していると同時に、直感が行動へ移るための『最後の一押し』になると考えることができます。
データが私たちの行動を決めてくれることはありません。結局、決めるのは私たち自身になります。データへアクセスしやすくなったとはいえ、経験や知識を基にした直感を働かせなければならないのは昔から変わらないと思います。
直感は簡単に養えるものというより、時間がどうしても必要になります。幸い最近はプロトタイプを用いたデザインプロセスが受け入れられているので、模索を繰り返しながら知識と経験を蓄えるようになりました。ただ、プロトタイプは単にツールでしかありません。どのように考えて、道具を使うのかで得られる結果も異なります。自分の直感を働かせて次へ進むにしても、以下の 3 点に気をつけることで、あなたの直感にさらなる磨きがかかるでしょう。
- 耳を傾ける : 直感は重要ですが、「直感です!」と宣言するだけではアイデアが通らないかもしれません。知識を深めるためにもチームメンバーやステークホルダーの見解に耳を傾ける必要があります。
- 実験する手法を見極める : 早く実験できる方法はどれか?決断するために必要十分な理由をみつけるために最適な方法は?正しい手法ではなく、今すぐできる最適な方法を探すほうにします。
- 何に影響されたのか説明する : 直感が知識と経験に基づいているのであれば、きっと直感に繋がる『何か』があるはずです。時にはそれを相手に説明することで、理解してもらえることがあります。また「では、こんなときどうなの?」といった会話を発展させてくれることもあります。
はやく決めなければ意味がないとき。リスクが低いとき。繰り返しの模索がしやすいときなど。
データを溜め込むことをせず「いけそうだから、やってみよう」と行動に移ったほうが、たとえ失敗だったとしても、成功へ一歩近づくことができます。デザイナーや開発者と会話をするときも「で、実際はどう思う?」といった質問を投げて、彼らの直感を聞き出すようにしています。
データの海に溺れないためにも、直感を尊重できる環境作りをしていきたいと思います。