2016年、デザイナーが実践すること
デザインってなんだっけ?
デザインはこれから重要になる。
デザイナーの端くれである私ですが、そんなこと言っている状態ではないのでは?と思うことがあります。 2016 年はデザインの重要性を伝える前に、デザインへの信用を取り戻すためのアクションが必要ではないかと考えています。ここ数年、海外(特に欧米)ではデザインの役割が大きく進化してきていますが、それを真に受けて日本で同じように実践しても意味がないと思います。なぜなら、デザインという言葉や、デザイナーの仕事における考え方の『前提』が大きく異なるからです。
デザインの価値を商業的なものだけにせず、人々や社会に良い影響を及ぼすためのデザインをしようという意向を示すデザインマニフェストが1964年に発表されています。見た目だけでなく、問題解決のためのデザインを考えていこうという動きが 50 年前からあります。また、アメリカのデザイナー協会 AIGA は、無料で「とりあえず作ってみて」と注文がくる Spec Work は止めようという声明を発表していますし、最近でも東京オリンピックのロゴをクラウドソースすることを反対する公開状を発表しています。
こうした活動は大きな団体だけに留まることはありません。例えば Medium のデザインタグを追えば、たくさんのデザイナーが自分の意見を発表していますし、今はポッドキャストとブログの全盛期と呼べるくらい、たくさんの『声』を聞くことができます。「こういうツールが便利でした」「私はこんな手法を実践しました」という記録だけでなく、ひとりのデザイナーが自分の意見を発している。間違っているかもしれないけど、意見交換をする。インターネットにより、こうした意見のやりとりが加速しましたが、それ以前からデザイナーが外に向けてデザインを語るという環境があるわけです。
こうした土壌があるなかで「デザインはこれから重要になる」という言葉を発することの重みは、日本から眺めているだけでは捉えにくいところです。冒頭で「デザインへの信用を取り戻す」という言葉をつかったのも、私たちはまだ重要性を高めるポジションにも立っていないと思うからです。
もちろん、日本でもデザイナー自ら外へ発信している人はたくさんいます。また、欧米の真似事をすれば良いとも考えていません。しかし、良いものを作れば理解してもらえるという考えはナイーブだと思いますし、せめて自分のデザインを『営業』できるようになるべきです。そうしなければ『お化粧直し』としてのデザインからの脱却からは難しいですし、デザイナーが考える『重要性』はなかなか伝わらないと思います。
閉ざされていたカーテンを開く
では具体的にデザイナーひとりひとりが何をしていけば良いのでしょうか。情報発信もひとつの方法ではありますが、それだけではありません。
「センス」「閃き」「感性」といった言葉がデザインに結びつくことがありますが、こうした言葉によってデザインの神秘性が増すことがあります。よく分からないけど、デザイナーは「センス」「閃き」「感性」によって凄いものを作る存在ということになると様々な課題が生まれます。
- 良いの判断が『分かる人』によって行われる
- 何を基準に評価し、どこを改善すれば良いか分からない
- デザインには工程があるのに、ないように思われる
- 言語化・視覚化されていないので複製(学習)できない
デザインは専用ソフトウェアが必要なだけでなく、コードのように共同作業が困難なので、ひとりになって閉じ籠りがちです。しかし、閉じ籠ってばかりでは、デザイナーがどのような課題を抱えて日々取り組んでいるのか見えてきません。どういった意図で今のデザインになっているかも、工程を共有することによって理解しやすくなります。
今まで神秘のカーテンによって閉ざされていたデザインの工程を見せること。それは、デザイナーの仕事が重要であることを伝えるためではなく、デザインが抱える大きな課題解決に協力してもらうためにあります。IDEOの Time Brown 氏は TED の講演で「デザインはデザイナーだけに任せるには重要過ぎる」という言葉を残しています。たとえ見た目という領域に止めたとしても、その課題の大きさはデザイナーひとりで抱えるべきではないでしょう。
幾つかのプロトタイプツールを使うのも、今まで見えてなかったデザインの側面を見せるためにあります。ペルソナやカスタマージャーニーマップを用いて利用者の意図を共有していますが、それでも見て触れる状態になってようやく理解できることも少なくありません。アウトプットしなければ分からないことは多いわけですから、デザインの工程を隠すことでアプトプットの頻度を下げることは機会損失だと思います。
今まで見え難かったところを見せていくこと。神秘的だったデザインの『種明かし』をしていくことは、デザインへの信用へ繋がるはずです。重要な位置になるかどうかはそれからの話だと思いますし、そんなことを語る前に、デザイナーの枠組みを超えたデザインがある世界になっているのかなと想像しています。