道具の選び方、関わり方を考えるためのヒント
間違ったツールの選び方
ペーパープロトタイプは、紙に書き込むというアナログなアプローチであることから、作るための敷居が低いだけでなく、アウトプットも早く改善がしやすいです。メリットが多いペーパープロトタイプですが、時間の無駄という意見もあります。紙で作られていることから再現性が低く、的確なフィードバックを利用者から得るには難しいからです。
それでは、ペーパープロトタイプが使えないのかといえば、こたえは「No」になります。こうした「○○は使えるのか?」という疑問は制作の方からよく聞かれる質問ですが、回答に困ることがあります。ペーパープロトタイプだけではありませんが、手法や技術そのもので使えるかどうかの判断はできません。採用する前に以下の 4 点を考慮して選ばないと上手くいかないですし、手法や技術へ責任転換をしてしまう恐れがあります。
- 誰とつくるのか
- 誰がその手法を使うことになるのか。自分ひとりだけなのか、それとも組織外の方も関わる可能性があるのか。彼らの背景はどのようなものかを知る必要があります。
- 何をつくるのか
- 今 Web が関わる仕事には、ランディングページのようなものから、オンライン/オフラインを交えたプラットフォームまで様々です。同じタイプのものでも規模と予算は大きく異なります。
- 何を目的としているのか
- プロダクト/サービスを作ることが最終的な目的ですが、そこへ辿り着く前に小さなゴールがいくつかあります。どのようなゴールが設定されているでしょうか。
- どのように作るのか
- クライアントとの関係はどのようなものでしょうか。彼等とのコミュニケーションの手段はどうでしょうか。それとも、クライアントがいない自社プロジェクトでしょうか。
ある手法を社内で導入してもうまくいかない(又はコストが余計かかった)理由は、上記の要素を考慮しないまま、ただ手法を導入したことによるものが多いです。ペーパープロトタイプにしても、盲目的に導入するのではなく、社内でスピーディにアイデアを共有するという目的を設定さえすれば、ペーパープロトタイプが最適な手法になりえます。
ワークフローを模索する
ワークフローはなるべく定型化したいですが、デザインプロセスが多様化していくなかで、すべてのプロジェクトに最適化された進め方や成果物はないに等しいです。技術や手法を導入することを考えるのではなく、自分たちのワークフローに合う技術や手法は何かを考えていく必要があります。
これは今までのワークフローを現状維持すれば良いという意味ではありません。プロトタイプにせよ、コードの管理にしても、選択肢は膨大にあります。こうした多様化が意味しているのは、自分たちに合ったものが探せるということだけではありません。働き方、組織内コミュニケーション、求められる品質、クライアントとの関係が変化しているからこそ、手法や技術も変わってきているのだと思います。つまり、手法や技術を『正しく』導入するには、ワークフローにメスを入れることが不可欠になります。
言い方を変えるのであれば、ワークフローが変えることができないのであれば、無理に新しい手法や技術を導入する必要はないと思います。目新しいからやったという、手段が目的になってしまうからです。
プロトタイプが必要なのは作る対象ではなく、ワークフローのほうかもしれません。デザインの進め方を設計する仕事をしていくなかで、ワークフローを模索する際に気をつけている点が幾つかあります。
- 何を変えるかを共有する
- 何を変えるのか、なぜそれを実践するのかといったところをプロジェクトが始まる前に共有します。変わることは多くの人にとってストレスなので、フォーカスを絞って小さく考えるようにしたほうが良いでしょう。
- 振り返りをする
- 想像していたより時間がかかったもの、短縮できたものはなにか? 変化によって悪影響を受けた人は誰か? こうしたところをプロジェクトの後に共有すると、工夫するポイントが見つけやすくなります。
- 1回で諦めない
- 最適な手法や技術がすぐに見つかることはありませんし、学習期間も必要です。プロジェクトとの相性が合わなかったことから、手法や技術が活かせなかい場合もあります。1回で諦めず、次回は少し工夫をしてみるといった繰り返しは必要になります。
ワークフローを変えることは簡単なことではありません。そこが難しいからこそ、手法や技術でどうにかしたいと考えている方もいるかもしれません。私たちは答えをすぐに求めようとしますが、答えは組織によって異なりますし、時間もかかります。新しい手法や技術に目を向けることは間違いではありませんが、その前に自分が置かれている環境をどうデザインすれば良いのか考え、模索していく必要があるでしょう。