講師をして感じたプロトタイプの可能性

ペーパープロトタイプ

昨年暮れから今年のはじめにかけて デジタルハリウッド大学院 秋葉原校にて「未来のインターフェイス」講座の講師をしていました。全 8 回のこのコースは、予測不可能な社会でデザインをしていく上で、少しでも早くアイデアを形にして伝えるためのノウハウと実践に近い演習を行いました。未来的(SF的)なインターフェイスを考えるというよりかは、今あるデザインの課題へのアイデアをプロトタイプし、未来へ繋げていくためのプロセスを学ぶ講座になりました。

授業の様子

昨年の 5 月から、青森名古屋金沢でプロトタイプに関するセミナーやワークショップを行いましたが、デジハリ大学院での講座のための実験でもありました。そこでの経験でうまくいったこと、上手くいかなかったことを参考にしてカリキュラムを構築。1 回 1時間半の講座が 8 回あるコースは長いなと最初は思っていましたが、盛りだくさんの内容になりました。

Web サイト構築の仕事をしたことがある生徒、3Dグラフィックをつくる生徒、又は企画・プロデュースをする生徒など知識や背景は様々。あまり技術的な側面からプロトタイプの実践ができないというデメリットはあるものの、様々な知識と経験をもつ人たちが集まってアイデアを出し合うには都合の良い環境でした。そこでペーパープロトタイプを軸に、アウトプットまでの道筋と批評を通してアウトプットを続けるためのプロセスを体感してもらうことにしました。

コースのおおまかな内容は以下のとおり:

体験のマッピング体験のマッピング
  • プロトタイプの定義と使い方
  • ツールの選び方
  • 体験のマッピング
  • マッピングから得た課題からプロトタイプをつくる
  • プロトタイプの発表と批評
  • マッピングから批評までの流れは個人とグループで行う

最初の授業で基礎的な情報は提供しましたが、その後はコース用ブログで情報発信をしたり、生徒からの質問に応えていました。インスピレーションのための情報や、ツールの紹介は授業でしなくても生徒が自発的にできることなので、わざわざ授業で時間を費やすことはせず、Web 上で良質な情報をコメントを加えながら配信していました。 ツールを自発的に覚えてプロトタイプを作った生徒や、ブログで紹介したインスピレーションから模擬したアイデアを提出した生徒もいたので、このあたりはうまく機能していたのだと思います。

プロトタイプを作ることはもちろん大事ですが、今回強調したのは体験のマッピング。閃いたアイデアをアウトプットするのもひとつのやり方ですが、実体験から得た課題からアイデアを引き出したほうが説得力がありますし共感も得やすいです。実際体験したことを視覚化し、整理していくことで、解決しなければならない課題が見えてきます。また、そこから作らなければならないプロトタイプの姿やプライオリティが明確になることもあります。

グループで体験マッピングをつくる様子

グループワークの前に、全員で付箋を貼りながらマッピングを作成したときは「結構出ますねぇ」という声がたくさん出ました。単純なシナリオでも、行動や感情をアウトプットしてみると、捉え方やプライオリティの違いに気付かされます。また、同じような課題を取り上げたかのように見えても、プロトタイプのコンセプトや形が全く異なる場合もあり、そうした違いに驚き学ぶところもあったかと思います。

うまくいったところはありますが、反省点も幾つかあります。

Popを使った事例使い方を教えなくても、道具を紹介すれば活用する生徒。POPをつかってプロトタイプを提出する人もいました。
生徒が主役になれる時間が少なかった
個人的にはこれが最大の反省点。コースの後半はワーク中心だったので、生徒の時間があったといえばあったわけですが、質問はほとんどメールやブログでしたし、一方的なレクチャースタイルが目立ちました。生徒とリラックスして話せるようになったのも後半に入ってからで私自身馴染むのに時間がかかったのも要因かもしれません。
2周目のフィードバックサイクルがなかった
時間の都合上、どうしても導入できなかった改善案としてのプロトタイプ。生徒がアウトプットする過程の中、個別でコメントをするなどフィードバックは可能な限りしましたが、クラス全体としてサイクルを体感できる場を作れませんでした。
生徒の特徴が活かす方法がみつからなかった
個人ワークでは才能を発揮していた生徒も、グループに入ると自分のアイデアをグループに対して発言できない人もいました。近年、コラボレーションが重要視されていますが、個人だから力を発揮できる生徒もいて当然。内向的でもアウトプットができる環境や課題つくりが出来たのかというと微妙です。
批評のファシリテーションが足りなかった
時間を長めにとって説明した批評ですが、私自身のファシリテーションがうまくいかなかったせいで、議論がズレた方向にいく場合がありました。私が総評として述べるといった手法であれば問題ないのですが、会話になったときの舵取りには改善の余地があると思いました。

今回、はじめて長い時間をつかった講座を行ったこともあり、不備なところもありましたが、モチベーションの高い生徒に助けられながら終了することができました。パブリックスピーキングの経験は長いですが、講師の経験があまりない私に、講座の機会を作ってくださったデジハリ大学院のスタッフに感謝しています。

今回のプロトタイプの授業での経験は、今後の仕事、セミナー、記事執筆に活かしていきたいと思います。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。