抽象性と具体性の間で動けるデザイナーになろう

作れることは重要ですが

デザインを「作る」を軸にして話すと、デザインの本質が失われることがあります。もちろんデザイナーは何か形にすることが仕事であるわけですが、作る話の多くは答えありきで語られることがあります。「◯◯の作り方」「△△を効果的に見せる方法」など、作ることが目的であったり、課題への答えが既に出た上でデザインが解説されていることは少なくありません。

何かを作り出すためのスキルを磨く上で、作り方を知る必要があります。しかし、答えがあらかじめ提示された状態で作るというやり方ではデザインをする仕事として必要な根本的なスキルを得ることが難しくなります。

UI の実装には、デザインの学習と成長における課題をたくさん見つけることができます。 今でも多くのサイトが採用しているカルーセル(carousel)は良い例です。「クライアントに言われたから」「作るという仕様になっているから」「競合サイトも実装しているから」という理由で作り始める場合がありますが、そこには「そもそもなぜ必要か」という問いかけが抜け落ちています。

カルーセルの実装に留まる話ではありませんが、ひとつの UI には以下のような課題が隠れており、それらに応えるための実装であることが理想的です。

  • アクセシビリティの課題 : 異なるデバイスや環境においても的確に情報を伝えることができるか(アクションを促せるか)
  • 技術的な課題 : パフォーマンスや実装コストによる『負債』がゴールの達成のために意味のあるものかどうか
  • 運用の課題 : 実装しても社内で的確な運用ができるかどうか
  • ビジネスの課題 : 作る目的が共有された状態で、それに基づいた制作が進んでいるかどうか
  • 組織的な課題 : 組織全体と、個々の部署の優先順位の違い
  • リーダーシップの課題 : 現状におけるベストプラクティスを提示して進めることができるかどうか

問いかけがないまま「カルーセルを作る」という答えから入ってしまうと、上記の課題を満たしていない(もしくは負荷を上げてしまう)ものを作るという結果になります。作れたかどうかをデザインの評価にしてしまうと、課題解決のためのデザインが満たされないことがあるわけです。作るだけがデザイナーの仕事ではないと言いますが、答えが決まっている上で作るという行為が語られることがあり、そこが悩ましくもあり難しいところです。

未知を形にできるデザイナー

実装(作る)と課題解決(考える)をバランス良く語ることは難しいですが、そこが開発を含めたデザインする仕事の面白さだと思います。デザインの仕事は以下のようなフレーズにまとめることができます。

1. データから導き出された洞察

定性・定量調査で得たデータは重要ですが、そこに明確な答えはありません。デザインの仕事はそこから、様々な可能性の導き出すことです。利用者の意図は何なのか?プロダクトが提供したい価値を満たしていないとしたら何が原因なのか?を根拠に基づいて考えます。これを「仮説( Hypothesis)」と呼ぶことがありますが、個人的には「予測(Prediction)」や「想像(Imagine)」といったフレーズを使うほうが好きだったりします。

2. 具体的なアクション

具体的に何を作ることで、予測を立てた課題を解決することができるでしょう。ボタンの色を変えることから、コンテンツの表示のされ方までいろいろ考えられるかもしれません。「やりたいこと」はたくさんあると思いますが、そのなかで最も効果が得れるものは何でしょう。また、様々な制約のあるなかで実現可能なものを作る必要があります。

3.起こりうる結果

作ったことによって、課題解決につながる可能性があります。しかし、本当に解決したかを判断するための指標がなければ作ったことによる効果が理解されない場合がります。予測に反した結果になったとしても、予測が間違いだったと言い切れません。次のアクションへ繋げるためにも、何のために作るのか、作ったことよって何を評価するのかを共有します。

これらすべてに携わることができるのがデザインする仕事の魅力ですし、だからこそ「何か作れる」ことはパワフルなコミュニケーションツールだと思います。『課題』『意図』という掴み所がないものに対して、具体的なかたちを提案ができるわけです。早く作って共有する方法も増えてきているので、考える→作る→評価するサイクルがますます実践しやすくなってきています。作れるというスキルをより活かすためにも、「なぜ」を問うところから始めることが重要ですし、その問いかけがデザインの仕事の本質ではないかと思うことがあります。



まとめ

デザインは既に出ている答えに対して作るだけではありません。解決しなければならない問題が複雑化している現在。明確かつ確実といえるようなひとつの答えを導き出すことが難しい時代です。だからこそ「こうかもしれない」と形にして提案できるデザイナーの力が不可欠になります。その提案は間違っているかもしれませんが、形にして出してみることで分かることは少なくないわけです。

これは言い換えれば、デザイナーは答えが出るまで待つのではなく、積極的に解決のためのプロセスへの参加が必要になりますし、模索ができるように様々な提案ができる『引き出し』もあったほうが良いことを意味しています。簡単なことではないですし、デザインプロセスにも変化が必要な場合がありますが、機械化に流されないためにも、作る『だけ』ではないデザイナーの姿を自分なりに描き始めたいところです。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。