脱テンプレートなFacebookの難しさと関係の変化

ネットワークのテンプレート化の終焉

2003年頃から次々にでてきた SNS。Facebookもその一種なのにも関わらず、使い方セミナーや勉強会が各地で開催されています。多機能、複雑というイメージが先行しているのも事実ですし、実際いろいろやることが多いのが Facebook。数多くの SNS がでてきた中、なにが Facebook が違うのでしょうか。

代表的な例として実名で公開しているという点が挙げられることがありますが、それが特に珍しいわけではありません。ビジネスに特化してしまえば LinkedIn も元々そうですし、規則ではなかったにしても他の SNS でも実名を記入することからコミュニケーションを楽しんでいた人たちはいました。

Facebook がなんとなく難しく感じる理由と、実名公開を貫く Facebook の姿勢。一見関係のないふたつのように感じますが、他の SNS との根本的な違いが複雑そうに見えるけど実名公開は OK かもと思える環境を作り出しています。

従来の SNS のあり方。すべての機能がフラットに扱われ組み合わせ方や人との繋がり方が一定。テンプレートなのでどのユーザーが使ってもおなじ。

従来の SNS は、人が関わるであろうと考える繋がり方を開発側が定義しテンプレート化しているのが特徴です。人との繋がり方、複数人との関わり方、情報の入手の仕方すべてが同一です。私たちユーザーはそのテンプレートに情報を入力するだけでよかったわけです。また、ネットワークがテンプレート化されていることから SNS で何ができるのかどうしたら良いのかというのが想像しやすいです。一時期 mixi とおなじような見た目の SNS が次々に出て来た時期がありましたが、当時は mixi が定義したネットワークのテンプレートを他サービスが模写したと考えることができます。SNS によって機能の違いが多少ありましたが、テンプレートとかなり違うという SNS はそれほど出現しませんでした。

ネットワークがテンプレート化したことで、他サービスに移行してもさほど難しいと思うことは少ないでしょう。テンプレート化されているので何をしたら良いのかがはっきりしているだけでなく手間も少ないです。

こうしたテンプレートになったネットワーキングサービスもデメリットがあります。テンプレートであるが故に人との繋がり方からすべてにおいて同一です。しかし、人間関係においてすべての『ともだち』が同一関係であることはないですし、シチュエーションや時間帯によって微妙に関わり方が変化するものです。先月の CSS Nite でも話しましたが、リアルとバーチャルの境目があやふやになっただけでなく、様々な『自分』というアイデンティティが同時多発的に生きています。こうした世界観が普通になった現在、すべての人のネットワークをテンプレートで片付けるのが不可能になりました。

もちろん、こうした問題は mixi が全盛期だった時期からありました。そこでユーザーが編み出した解決方法が複数IDの取得です。幾つかの ID を取得して ID ごとに違う人の繋がり方を作り上げたり、ひとつのテーマに特化した SNS に入会する手法です。ログイン・ログアウトの手間はありますが、ID ごとに人の繋がり方を変えることである程度解決することがあります。しかし、こうした状況だとすべての ID で自分の名前を付けるのはナンセンスですし、それぞれのネットワークで通っている名称 (ニックネーム) をつかったほうが理にかなっています。また、特定のネットワークでは無駄な機能が残る可能性がありますし、人の繋がり方で切り分けたとしても状況に応じた変化に絶えれるかどうか分かりません。

テンプレートから部品の提供へ

Facebookの場合は人との繋がり方や機能の使い方などすべてをカスタマイズ可能。独自のネットワークを作り上げることが可能。使い方次第なので人によってネットワークの形が異なる。

Facebook も他の SNS と同様、友達リストや写真共有といった機能があります。しかし、他と異なるのがすべてにおいてカスタマイズ可能という点です。例えば繋がっている人ひとりに対してどのように情報を表示させたいか、どのタイミングでその人に情報を発信したいかを決めることが出来ます。グループ機能など豊富な機能がありますが、これらも拒否することが出来ます。使っていない方は表示されないだけで、「まだ何もありません」といった妙な空間が出来ることもありません。

つまり、Facebook は人と繋がるところから、コミュニケーションを助長する機能すべてを部品化し提供していると捉えることができます。今まで複数 ID の切り替えで成り立っていた人の繋がりの強弱も部品の組み替えや設定で解決します。以前は高校・大学時代の友達とコミュニケーションをとるためだけに Facebook を使っていましたが、今は同業者の方達と繋がるツールにもなっていて Facebook グループ も立ち上がっています。人が複雑に入り組んでいるかのように感じますが、設定さえすれば今までのように学生時代の友達との交流をメインで使い続けることが出来ますし、必要なタイミングで同業者達と繋がれるようにすることができます。ひとつの ID で様々な繋がり方や『顔』をつくることができるので、実名でやることもそれほど支障はないのかもしれません。

テンプレート化されたネットワークでは満たされない個々の細かなニーズに応えるためには Facebook のような部品の提供が最適でしょう。しかし、ネットワークを繋がり方や見せ方も含めてゼロから構築しなければいけない手間があります。テンプレートを作るのではなく、自分だけのカスタムネットワークを作るわけですから、正解の形もなければ誰かの真似をすればいいわけでもありません。手軽にスタートするためのテンプレートがないので「分からない」と感じる方もいるでしょうし、部品の組み合わせや設定が無数にあるので「難しい」と感じるのでしょう。

関係を設計する時代

Orkutのプロモビデオ。今の Web の使われ方を的確に表現しています。

ネットワークのありかたそのものを利用者がコントロール出来るからこそ、企業がファンページを作って配信する余地が与えられているのかもしれません。企業を「Like」してもニュースフィードに入ることを拒否することは出来ますし、知りたいときに知るような接点をもつことも出来ます。テンプレート型 SNS だと友達でもないのに企業が友達リストに入っていたり、広告スペースにはいったりと異質なものになりがちです。Facebook のような場は企業が企業としてどのような関係作りを SNS で出来るかを試されているのかもしれませんね。

多次元化している人のアイデンティティに合わせるかのようにテンプレート型の SNS も少しずつ進化しています。mixi も友達リスト機能を実装していますし、SNS の元祖的存在である Orkut は なんとなく Facebook みたいになってきました。ひとりの人間だからひとつのライフスタイルであるというテンプレート型のネットワークも徐々に少なくなっていくのかもしれません。

今の時代における人間・社会関係とは何かを突き詰めると Facebook のような形はひとつの解決方法というのが分かります。それが機能としても補えるようになってきたからこそ、こうした形が主流になりはじめているのかもしれません。人と人、人と企業、人と情報・・・様々な関係がありますが、それらをどう設計するのかというのは SNS といった大きなアプリケーションだけでなく、Web サイト構築にも関わる重要な課題ではないでしょうか。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。