デザインを理解してくれないと嘆く前に
分かっていないのは誰か?
デザインの評価は、デザイナー同士でも難しいこと。それが違う職種や背景の方と話をするとなると、さらに難しくなります。プロであれば、仮説を基にして議論をするよう努力しますが、周りがそうであるとは限りません。
人間工学者 Gitte Lindgaard が 2006 年に発表した文献「Attention web designers: You have 50 milliseconds to make a good first impression!」によると、ユーザーはわずか 0.05 秒で Web サイトの見た目に判断を下すそうです。これはアプリをはじめ、様々なデザインにもいえると思います。デザインの意図やプロセスを知ることはないわけですから、「ダサい」「見難い」「分からない」といった突発的な判断を下すのも当然かもしれません。
では、「デザインを理解していない」と一蹴していいのかというとそうではないと思います。良いデザインとそうでないデザインの違いが分からないと嘆いても、同じようなことは私たち自身もしていることがあります。料理、ファッション、映画、音楽など、別の分野になると私たちも同じように瞬時で判断したり、良くないものを「これで良いじゃないか」と言っている可能性はあります。
結局のところ主観的な要素は避けられないわけです。同じものをみて、誰もが声を合わせて「良いデザイン」と思えるものはほとんどありません。また、親近感や既視感によって生まれるバイアス(Familiarity heuristic)が、「見たことがあるから良い(見たことないから不安)」といった判断に繋がることもあります。
どのように判断しているのかを知る
私たちデザイナーとして知っておくべきことは、視点が変われば、見る世界が変わるということ。当たり前のことではありますが、ここを意識しているかしていないかで、デザインの評価の聞き方・話し方が変わると思います。
例えば、デザイナーが「こんな使い難くて見た目が悪いのはありえない」と言ってしまうようなアプリがあるとします。しかし、それが競合に比べて以下のようなメリットがあるとしたらどうでしょうか。
- 既に会員だから情報入力の手間が省ける
- カスタマーサービスがしっかりしている
- 回線が弱くても満足に使える
- 友達がつかっている
以上のことを知っていても、見た目が悪いからダメなアプリと言い切れるでしょうか。このように利用者の文脈を知ることでデザインの評価が変わることがあります。デザインを「利用者の問題を解決するもの」と見なすのであれば、見た目や使いやすさとは別のところにも解決策が隠れているのが分かります。
もちろんタイポグラフィや画面設計は重要ではないと言っているわけではありません。デザイナーにしか分からないようなディテールが、利用者体験を増幅させていることがあります。先述したのように、多くのユーザーは瞬時で判断するわけですから、第一印象は良くしておきたいです。しかし、そのディテールが、優先的に解決するべき利用者のもつ課題かどうかは別の話です。
また、デザインのことを知らないからこそ、言葉が足りていないだけということもあります。ユーザーが感じる「なんとなく」には何かしらの理由が隠されています。ただ、それを明確に表現することができないから「分からない」といった安易な言葉に入れ替わっていることがあります。ユーザーの声と意図のギャップを理解するためにもインタビューは有効な手段です。
こうした配慮をすることで、デザインがより理解されるようになる … というほど単純なことではありません。しかし、多くのデザインを見せたり、それについて話す接点を増やすことが、デザインの理解への近道だと思います。