モバイルコンテキストの見分け方と注意点
モバイルにおける文脈とは
「文脈を理解したWebコミュニケーションデザイン」という記事で、利用者のコンテキスト(文脈)に応じて Web サイトの見せ方も変化させる必要があると話しました。利用者から取得できるコンテキストを7つ挙げましたが、今回はモバイル環境におけるコンテキストとは一体何であるかを少し掘り下げてみようと思います。モバイルにおけるコンテキストとは何でしょうか?何を基にして仮定することができるのでしょうか?
モバイルにおけるコンテキストを理解する上で以下の3つがキーになります。
- 誰が使っているか(Who)
- 何を使っているか(What)
- 何処にいるのか(Where)
これらをリアルタイムかつ自動で取得することでコンテキストをある程度把握することができるようになります。例えば何を使っているのかを User Agent などで理解することが出来れば、PC版のフルサイトではなく自動的に最適化されたサイトを最初に表示させることが出来ます。何処にいることが分かれば、その場所に最適な情報をページ上に表示させることも出来るでしょう。
文脈を決めつけない
利用者の様々な情報を(プライバシーの侵害にならない程度に)取得することで、彼等が何をサイトに求めているのかをある程度予測することが出来ます。これはモバイルに限定したことではないですが、文脈を把握しようとするあまりに利用者のサイトの扱い方に制限を与えてしまう可能性があるので注意が必要です。
例えば私がモバイル機器を使って今訪れている店内の Web サイトにアクセスしたとします。モバイルでお店のサイトにアクセスしているわけですから、セールや限定製品だけを表示しておけば良いだろうと考えるかもしれません。モバイルですぐに情報が見たいという利用者の要望はあるでしょう。それゆえ文脈から考えられる最適な情報だけを表示させてシンプルで迅速な情報提供が最適だと考えられますが、一概にそうとはいえません。
モバイル機器を利用しているから、その人は外で移動中なのだと仮定できるわけではありません。Yahoo! と Nielsen が 2010年 11 月に発表した Mobile Shopping Framework (PDF) という調査結果によるとアメリカ人男女8,384人のうち 89% が家でもモバイル機器からインターネットを利用しています。しかも 40% はトイレからも使っており、モバイル機器が家の中でも人と近い関係にいるということが分かります。こうした調査結果からも分かるとおり、モバイルだから外出中であると決めつけるのではなく、「何処にいるのか(Where)」を家も考慮対象として吟味する必要があります。
モバイル機器向けの Web サイトを構築するのではあれば、スクリーンサイズが小さいわけですから、ある程度情報を絞らなければいけなくなります。しかし、それは制作者が想定してたコンテキストに合わせて情報を絞り、それだけを表示しておけば良いというわけではありません。様々なコンテキストに合わせてサイトの表示の仕方を変えることは可能です。しかし、すべての状態に合わせて最適な情報の見せ方を提供することが出来るとは限りません。様々な利用者・機器の情報が得られるとはいえ、すべてを想定は出来ないからです。情報を絞らなければいけませんが、同時に絞られた情報以外の情報へアクセス出来る方法を残しておくことが重要です。
よく多言語サイトにあるのですが、IP アドレスからどの国からアクセスしているのかを把握し、その国の主要言語でサイトを表示させるところがあります。ほとんどの場合「お、楽だ」と感じる機能ですが、日本にいるから日本語しか理解できない日本人であると想定することは出来ません。在日アメリカ人であれば英語のインターフェイスでサイトの操作がしたいでしょうし、アメリカの情報をまず知りたいと感じるかもしれません。IP アドレスから主要言語を予測してインターフェイスに反映させること自体は悪いことではありません。しかし、他の言語に変えることが出来ないのであれば、制作側による文脈の思い込みですし、扱い難いサイトになってしまいます。
様々な文脈に対応したデザインを提供するにしても、最終的な判断は利用者にあるように明確な選択肢を提供しておきたいですね。
回線速度というもうひとつのコンテキスト
コンテキストを理解する上で3つの要素を記事の最初で紹介しましたが、もうひとつ今後キーになってくると感じているのが回線速度。モバイル機器だからといっても家で利用している場合があるように、モバイル機器だから安定しない 3G 環境のなかに常にいるとは限りません。回線速度に応じて最適な画像を提供したり、情報のボリュームを変化させるということもひとつの解決手段です。また、回線速度から利用者がどのような場所にいるのかの予測に役に立つでしょう。
例えば Android では ConnectivityManager というクラスを利用することで、ネットワーク状況をモニタリングしたり、状況に合わせて命令を出すことが出来ます。ネイティブアプリではこうした処理が可能性ですが、現状 Web サイトで同等のことをすることは出来ません。しかし、JavaScript を通してハードウェアのリソースにも随分アクセス出来るようになってきましたし、将来的には回線速度を考慮したサイトデザインも容易になるかもしれません。
このように、モバイルのコンテキストと言っても、考慮しなければならないことがたくさんあります。考えることはたくさんありますし、とても大変ではありますが、同時に可能性(ソリューション)もたくさんあるということです。常に人に寄り添うモバイル機器を通してどのようにコミュニケーションがとれるかを考えるのは、なかなか楽しいことだと思います。