Webで広告を見せる前に必要なこと

Do we really hate ads?

広告 (バナーやテキスト広告) は Web サイト運営において貴重な収入源のひとつです。しかし、広告を観覧している利用者にとってはあまり好まれていない存在でもあります。AP (Associated Press) では民族誌学の視点からニュースサイト読者の研究を進めていますが、読者は現在の Web における広告の体験に満足しておらず、多くはウンザリしているそうです。しかし、広告そのものを嫌っているというわけではなく自分に関係のある広告であれば見たいと考える方も少なくありません。

こうした結果は AP による調査より以前から言われていることなので驚くことではありません。ビルボードや雑誌や TV の広告のように、今まで自分には関係のない広告をたくさん見てきた私たちが、なぜ Web だとウンザリしてしまうのでしょうか。その理由として、Web では主導権が自分にあるという点にあるでしょう。自分が欲しいと思う情報を欲しいタイミングで手に入れることが出来る Web。自分が必要としない情報をスキップしたり排除したりすることが容易に出来る Web。自分に主導権があるという意識が高まるほど、利用者が予期していないことや、コントールが出来ないことに拒絶反応を示してしまうのかもしれません。

How to enter users’ personal space

日本でもネット広告費は増大していますし、特にモバイルは今後さらに勢いを増すでしょう。ここ100年でメディア/情報の消費の仕方がよりパーソナルへ変化しており、その究極の形がモバイルデバイスです。モバイル広告が拡大しているのは事実ですが、パーソナルな空間として存在するモバイルでどのように広告を出すのかは今後の課題です。パーソナルな場であるがゆえにパソコンでの利用より邪魔な存在になる可能性すらあります。

そもそもモバイルの使われ方を見てみるとそれがパーソナルなものであることが分かります。メールや SMS を使ったやりとり、Twitter や Facebook のようなソーシャルメディア上で大勢とのコミュニケーション、映画の時間や天気の確認などパーソナルな目的での使われ方が多いと思います。パーソナルな空間へ関係のない広告を『侵入』させてしまえば、嫌がられて当然かもしれません。

私たちが実世界で他人を自分のスペースに招く理由として、彼/彼女を信頼しているからという点にあります。これと同じで、情報配信側が読者から信頼を勝ち取ることによって、広告を出す機会、見てもらう機会を得れるのかもしれません。たとえ Web 以外でブランドがある企業でも Web では Web での信頼を得る必要はあるでしょう。先に紹介した AP の記事によると、彼等は2つの側面から信頼を勝ち取るための努力をしています。

信頼性のある情報提供
読者調査によれば、彼等は広告疲れだけでなく、薄っぺらいニュースが星の数ほど更新されていることにも疲れているということが分かったそうです。そこで、AP では掲載したニュースのバックストーリーや関連トピックを読むための導線を充実させニュースに深みをつけたそうです。たくさんの情報を提供しているサイトから、理解出来るニュースを提供しているサイトを目指したということでしょうか。
人が会話しやすいニュース提供
情報の流れの変化を意識したウェブ戦略」という記事でも紹介しましたが、AP は Facebook でニュース配信を行っており、頻繁にファンへ質問を投げかけるなど対話も忘れていません。またヘッドラインも Twitter フレンドリーになるように文字数を工夫するなど編集面でも変化が表れたそうです。

こうした「信頼」というソーシャルメディアの通貨の獲得に努力しているサイトは少なくなく AP だけでなく Telegraph もそうです。2007年から2008年にかけて2倍以上にアクセスを伸ばし、イギリスのニュースサイト第三位までに成長した Telegraph は、上記に挙げたアプローチを行ったサイトのひとつです。Twitterが大ブレイクする 2008 年春に公開された古めの資料ですが A New Model for News は、Telegraph の成功事例を含め、今でも読む価値があります。

Before technology, we need to talk like a human

今見ているコンテンツに関係した広告を表示させることは、AdSense などサービスを利用すればそれほど難しい話ではありません。こうした広告の技術は年々洗練されているのでマッチ度が高い広告が表示される頻度も高まるでしょう。しかし、人々は関係のある広告が掲載されていたらそれで良いと言っているわけではありません。「何」が掲載されるのかに注目するのではなく、「誰」が「どのように」掲載しているのかに注目しなければいけません。この部分は技術では(少なくとも今のところ)どうすることが出来ないところです。

利用者がいる場に自分たちから出向いてコミュニケーションをとることが、結果的に自社サイトに掲載されている広告効果に繋がるという見方は、最初は分かり難い考え方ですが結果を出しているサイトが出て来ています。マッチング広告技術と捉えてしまうと予算もかかりそうで今のサイトに組み込めるかといった懸念など考えることが余計増えてしまいます。しかし、そういった技術的な側面からのアプローチを使わなくても、効果的な広告を読者に見せることは可能だと思います。根本的な広告の意味は今も昔も変わらないと思いますが、アプローチの仕方が変わって来たのでしょう。

The illustration is from jbcurio.

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。