ポジティブとネガティブのデザインバランス

ポジティブ心理学によれば、人の生活にはポジティブとネガティブな情動の両方が不可欠とされています。ネガティブな体験をゼロにするのではなく、必ずあることを受け入れ、ネガティブな体験をたくさん作らないようにするという考え方はデザインにも応用できます。

個人や社会の反映させるような強みや長所を研究するポジティブ心理学。以前、ポジティブ心理学から学べるデザイン思考でも取り上げましたが、より良い体験を設計したいと考えるデザイナーであれば無視できない分野だと思います。一見、自己啓発の話に聞こえるわけですが、チーム管理や、コミュニケーションなどにも役立つと言われており、関連書籍や資料から多くを学ぶことができます。

ポジティブな人だけがうまくいく3:1の法則日本語でもフレドリクソンの著書は刊行されています。「ポジティブな人だけがうまくいく3:1の法則

社会心理学者であり、ポジティブ心理学の研究をおこなっている Barbara Fredrickson(バーバラ・フレドリクソン)教授。ポジティブな情動は人の視野や思考の枠を広げ、ネガティブな情動はその逆の働きをもっていることを証明しました。ポジティブな感情と心身の健康との関係の研究を続けているフレドリクソン教授ですが、中でも注目なのが 2005 年に発表した「Positivity/negativity ratio(ポジティブ・ネガティブ比)」という理論です。

この理論によると、人の進化はポジティブとネガティブの 2 つの反応によって支えられているとしています。今続けている活動を続けることを助長してくれるポジティブな反応。活動を続けることを妨げたり止めさせようとするネガティブな反応。いずれかの反応があるだけでは駄目で、双方が存在することが人間の成長と、より良い生活には欠かせないとされています。

仕事、会議、結婚、団らんなど、様々な状況に応じて、ポジティブとネガティブがどれくらいの比率だと最適なのかを研究。その結果、ポジティブとネガティブが 3 : 1 の比率で存在するとよいバランスであるとしています。明確にポジティブ・ネガティブと分類ができない情動を数学的に表現することへの反論はありますが、デザインにもこの比率を応用することができると思います。

使う人全員が同意するようなパーフェクトなデザインは存在しません。
つまり、利用シーンの間のどこかで「ちょっと違う」「やっぱり止めた」と思わせてしまうポイントが幾つかあるわけです。ポジティブな体験を作るためにデザイナーは様々な工夫と努力をするわけですが、ネガティブな体験がゼロになることはありませんし、ポジティブだと思って設計したものが、ある特定の人たちにとってネガティブに働くこともあります。

ネガティブな体験は必ず存在します。フレドリクソン教授の理論によれば、ネガティブな体験をゼロにするのではなく、必ずあることを受け入れることから始まると捉えることができます。もちろん、ポジティブとネガティブのバランスを正確に 3 : 1 にすることはできませんが、ネガティブな体験を引き上げないような工夫はできるはずです。

  • 利用者を突き放すようなコミュニケーションをとらない
  • 利用者が理解できない言葉をつかわない
  • ネガティブな体験を続けて提供しないようにする
  • ポジティブな感情を引き起こしやすい装飾を加えてみる

デザインをしていると、良くするための工夫や機能に注目しがちですが、ポジティブな部分だけでなく、ネガティブな部分も無視できない領域です。「良い部分をもっと良くする」ということから始めるのではなく、「良くない部分をたくさん作らないようにする」という視点が、人との関わりが多いプロダクト・サービスには必要なのかもしれません。

筆者について

Photo of Yasuhisa Hasegawa

組織の一員となるスタイルで一緒にデザインに関わる課題を解決するといった仕事をするなど、チームでデザインに取り組むためのお手伝いをしています。各地でデザインに関わる様々なトピックで講師をしています。