Webならではの表現を見つけるために捨てるべきこと
面白いから実装で良いのか
コンテンツや利用者体験を重要視する動きは Web でもネイティブアプリでも見られるものの、Web サイトデザインにおいては空回りしているように見えることがあります。ときには Web サイトよりネイティブアプリのほうが良いと思われてしまうような表現や手法が使われていることも少なくありません。
上から下へスクロールするという多くの利用者が期待するユーザビリティでさえ、パララックスデザインという表現によって破壊されていることがあります。パフォーマンスが重要視されているのかと思いきや、10 以上の JavaScript ライブラリを組み合わせた重たいサイトも未だにあります。それも「面白い表現」「ネイティブアプリのような見た目」を実現するためだけに実装されていることもあり、利用者には負荷がかかることがあります。日本人を対象にしていたとしても、誰もが高速回線でデータ量無制限というわけではありません。
Flashサイトではよくないよねとか言われていたのに、HTML5サイトならローディングナウとか、スキップイントロがありになってしまう不思議。おいおい。
— Yasuhisa Hasegawa (@yhassy) June 2, 2014
興味深いことに、10 年くらい前に「バッドプラクティス」と呼ばれていたことが、様々なサイトで採用されています。ローディング画面はもちろん、ニュースレター登録を促すためのポップアップ、自動的に出現するバナー、テキスト選択メニューの過剰なカスタマイズなど、今よく見かける手法になりました。昔に比べると表現は洗練されていますが、利用者に負荷をかけているという点では今も昔も変わりません。
Web だけでなくネイティブアプリにも言えることですが、利用者が求める基礎欲求を満たさないまま見た目や動きを洗練させても、良い利用者体験は実現しているとは言い難いと思います。にも関わらず、見た目に酔いしれたり、簡単に実装できるからという理由で特定のユーザーしか満足しない化け物のような製品が生まれることがあります。特に Web サイトではその傾向が強いですし、星の数ほどあるテンプレートやライブラリがそれを加速させているかのように見えます。本当はテンプレートやライブラリのようなツールが利用者の問題を解決するべきですが、制作者の手間を省いているだけということも少なくありません。
リフレーミングWebデザイン
4年近く前になりますが、私は従来のWebサイト制作は終わるという内容の講演をしました。もちろん今でも Web サイト制作という仕事は残っていますが、当時指摘していた自動化・機械化が進んでいるという点は間違っていないと思います。機械化が進むことにより、人にしかできない問題解決のための設計と実践ができるはずです。しかし、現状は人も機械のような効率化を進めているだけでなく、過剰な機械化によって利用者へ迷惑をかけているというところがありそうです。
Instant Article や iOS 9 の Newsは、プラットフォームがコンテンツ配信を始めたというインパクトがあると同時に、Web サイトが利用者にとって適切な体験を提供していないことを示しているのかもしれません。1秒でも早くコンテンツがみたいユーザーと、JavaScript を駆使した表現に没頭するあまり、パフォーマンスを落としている Web サイトはミスマッチな関係です。
これをネイティブアプリの勝利と見なすことはできますが、私はそうではないと思います。 Web が良くないというより、Web サイトが良くないと表現したほうが正しいのかもしれません。URL はハードウェア、プラットフォーム、アプリの垣根を越えて自由に観覧・共有を可能にしてくれます。コンテンツをきちんと設計してあれば、未知のデバイスがでてきたとしても配信することもできます。デバイスの種類が増えるだけでなく、ひとりあたりが所有する接続可能なデバイスも増えていきます。今後、ますます情報へアクセスできるかどうかという課題が深刻になります。そのとき Web は大きな役割を果たすことになるでしょう。
技術は進歩し続けてます。JavaScript や CSS で可能な表現や機能は増えていきますし、SVG も広く使える土壌が整ってきました。ネイティブアプリのような動作を可能にするWeb技術もたくさんあります。しかし、Web サイトが頑張ってネイティブアプリの真似事をしても、ネイティブアプリの体験に勝ることはありません。作れるようになったからといって、実装すれば良いものでもありません。マルチデバイス、マルチプラットフォームという世界のなかで、もう一度 Web ができること、Web でしかできないことを考える時期に来ています。そこで求められる Web のデザインとは、今までのような表現重視ではないはずです。ツールによって簡単にできるようなことを Web プロフェッショナルが携わるということでもないと思います。
答えが出ない難しい課題ですが、たとえ小さな表現でも利用者へ負荷をかけているということを意識してデザインすることは今からでもできることです。どのような表現が利用者のニーズにマッチしているのか。様々な制約を考慮しながら適切なビジュアルコミュニケーションを設計するにはどうすればいいのか。こうした疑問を投げかけて実装することが、次の Web デザインに繋がると思います。