模索が加速するユーザーテストのコツと今後の可能性
テストするとは模索すること
ユーザーテストをすることのメリットは、Web やアプリの開発に携わる方であれば周知のことだと思います。例えば、スポーツ系 SNS Sidelines は、6 つの異なる A/B テストを実施したことで、コンバージョンを 5% から 55% まで上げることに成功しました。
最近見つけたユーザーテストの面白い例といえば、先月の大統領選挙でのオバマ大統領のメール戦略。キャンペーンEメールの件名を「有権者の皆様にお会いしたいです」のようなよくある件名から、「支出が多過ぎるかも」みたいなちょっと変わったものまで様々なパターンを検証。毎回 10 数パターンをつくった上でベストと考えられる件名をつかって配信されたそうです。いろいろ試した結果、最も寄付金が多かったときのメールの件名が「Hey (やぁ)」。カジュアルな口調を件名にもっていったほうが良い効果を得ることができたそうです。
米大統領選挙は Web でもアプリでもない特殊な例ですが、テストや模索を続けなければ分からないことが多いという一例といえるでしょう。続けることでデータが集まり、全体像や傾向が見えてきたわけです。
テストが失敗してしまう理由
ユーザーテストは利用者の行動や意図を探るための素晴らしい手法ですが、ただやれば答えが出るというわけではありません。どのツールを採用するにしても、以下の項目を抑えておかなければテストがうまくいかなくなります。
- 何を測定するのかを明確にする
- 当たり前といえば当たり前なのですが、「使いやすいかどうか」という大まかな目的で行うと主観的な結果になりかねませんし、改善のための具体案も出せません。また、測定したい行動は1テストに対し1つに絞らなければ、どの要素がどう行動に影響したかが判断しにくくなります。
- メンタルモデルを聞き出す
- 利用者は具体的な行動に移るまでの間、頭の中で様々なことを考えています。この頭の中での思考が、測定に大きな影響を及ぼすことがあります。彼等の考えをインタビューで聞き出したり、話しながら操作してもらうことで、改善のためのヒントがみつかります。
- 未開の地も見据える
- 特に新しいプロダクトやサービスのテストにいえますが、今まであったものを少し改善することだけが答えではない場合があります。テストの結果を多少考慮するものの、今までなかったコンセプトをあえて導入するという勇気も時には必要です。
ユーザーテストに踏み切れないもうひとつの理由としてコストがあります。従来は高い機材や、特別な部屋を用意しなければならないという印象がありましたが、状況は次第に変化しつつあります。例えば Silverback のようにカジュアルに行えるユーザーテストツールをあれば、ClickTale のようにアクセス解析と組み合わせたデータの視覚化も出てきています。
リモートテストに感じる将来性
高価なテスト環境がなくても、Web に繋がる環境であれば低価格かつ気軽に実施することができるということで注目されているリモートユーザビリティテスト。最近ではリモートユーザビリティテストをするためのツールも充実しています。
また、専門ツールを使わなくても GoToMeeting や Skype のようなビデオカンファレンスができるアプリでもテストはできます。
リモートユーザビリティテストを使う理由は、ただ単に安いだけではありません。以下の理由でうまく使えばリモートテストは今までにない効果が得られるのではと考えています。
- 環境もテスト要素になりうる
- リモートテストは、テスターが使い慣れているデバイスで行われることが多いです。彼等が毎日いる環境のなかで使い慣れているデバイスを扱うということは、より実世界に近いテスト結果を得られる可能性があります。テスターの『リアル』を検証することができる機会を得ることは、UX 調査にも多大な影響を与えるでしょう。
- 他のエコシステムとの連携
- 今のシステムは独立して存在していることはありません。写真アルバムから選んだり、PayPal でショッピングをするなど、他のエコシステムを行き来しながら、メインタスクを執行します。また、TV を見ながらスマホを使ったり、タブレットを見ながら料理するといったオフ・オンラインが行き来する行動もあります。こうした様々なエコシステムとの関わりも含めてテストしなければ検証できないこともあるので、テスターが使い慣れたデバイスでテストを行うことの意味は大きいです。
もちろんデメリットもありますが、リモートテストも有効な手段のひとつだと思います。多デバイス化はますます進み、人とコンピュータの関わり方も複雑になってきからこそ、テストは必要です。同僚や家族に聞くというカジュアルな方法から始めてみてほしいですし、時間と予算が許す限り、様々な手段でユーザーテストに試みてほしいです。今は様々な選択肢があるわけですから、試すには絶好の機会でしょう。