デザイン批評を始めたい人のためのヒント集
批評と具体的な方向性を固めるプロセスは別々にしたほうが、フィードバックを基にしたデザインの改善のスピードを速めることができます。
批評は聞くことから始まる
デザインをはじめとしたクリエイティブプロセスにおいて意見交換は欠かせません。いちど自分の手から離すことで発見できることはたくさんあります。しかし「これはどうですか?」と見せるだけでは求めるフィードバックを得ることは難しいです。誰もが最初からデザインについて会話ができるわけではないので、デザインの批評(critique)の進め方に注意を払わなければいけません。
わざわざガイドラインまで作ってしまうと、かえって窮屈になってしまいます。構えて会話するより、平等にあれこれ話せるのが理想的です。そうした雰囲気をつくるために、デザインをみせるデザイナーだけが努力すれば良いというわけではありません。批評に参加するすべての方がちょっとした気遣いをすることで良し悪しを決める場から、ゴールに向かうための改善の場になります。
批評する側が気をつけること
- すぐリアクションしない。どのような文脈でそのリアクションが起きたかを考える
- 決めつけない。何かしらの制約によるものかもしれないので、理由を聞き出す
- 質問から始める。デザインに興味を示すことでデザイナーからさらにプロセスを聞き出すことができる
- うまくいっているところを指摘する。正しい方向にデザインが進んでいるのか理解しやすくなる
- 常にゴールを意識する。自分にとってどうではなく、ゴールに沿った提案かどうかを吟味する
批評される側が気をつけること
- デザインとデザイナーはイコールではない。自分自身が『攻撃』されていると思わないこと
- まず耳を傾ける。批評者が何を言っているのか、どのような意図で話しているのかを探る
- 批評は理解のため。批評は良し悪しの判定を下す時間ではなく、改善のためにある
- 常にゴールを意識する。フィードバックはゴールを達成するためにプラスになるか考える
こうした項目は批評を始めるための基盤になりますが、上記を実践すれば批評の達人になれるわけではありません。数をこなすことで少しずつゴール達成のための批評の時間に近づいていきます。まずは自社製品の批評や個人用のジャーナルに書き留めるなど、小さく始めるのがオススメです。
ゴール、ゴール、ゴール
批評はデザインがゴールへ近づいているのかを確認するための場。しかし、視覚的な要素が強いデザインだと、ついつい自身のテイストの話にずれ込んでしまうことがあります。ゴールのための批評時間であることは、参加者に念を押しておいても良いでしょう。
批評で設定されるゴールは、例えば以下のようなものがあります。
- 幾つかの可能性を提示・吟味しながら、ある特定のフィードバックを得るため
- 専門家 / 特定の役職の立場から、フィードバックを得るため
- 特定の要素を比較・分析し、実装・運用可能かどうかを話し合うため
- 画面遷移を見ながら、利用者がどのように考え行動するかを議論するため
- 競合や類似製品と比較しながら、自身の製品の品質向上に繋がるかを模索するため
こうしたゴールに沿った批評をするために、以下のような質問を投げかけてみると良いでしょう。すべての状況に使える質問ではありませんが、何を考えたら分からないというときに使えるはずです。
- 利用者のどのような文脈を想定して作られたと思いますか?
- このデザインは、ユーザビリティ / デザイン / ビジネスにおけるどの課題を解決しようとしていますか?
- ターゲットにしている利用者に適した見た目や言葉使いだと思いますか?
- 共有されているブランドガイドラインに沿った見た目になっていますか?
- 利用者はどこでつまずくと思いますか?なぜそう思いますか?
- 事前に調査して学んだことが反映されているところはどこですか?さらに追求できるところは?
- このデザインのメリット / デメリットはどこにあると思いますか?
批評の落とし穴があるとすれば、批評の時間に答えを導き出そうとすること。今出ているデザインの分析、現状の課題、ゴールに向けた方向調整が批評の主な目的です。幾つかデザインの提案や、指示がでることがありますが、結局見たり触ったりしないと分からないことがあります。批評と具体的な方向性を固めるプロセスは別々にしたほうが、フィードバックを基にしたデザインの改善のスピードを速めることができます。
批評は簡単そうで難しいですし、時間も集中力も要します。しかし、デザインをデザイナーだけのものにしないためのプロセスとして批評は有効な手段です。デザインプロセスへ招待することが、デザインについて考えてもらうための近道です。