キーワード 2013: Stimul-experience(同時体験)
昨年、 Everyscreen というキーワードを提唱しました。スマートフォン、タブレットという特定のデバイスだけでなく、生活の様々なシーンに登場する「スクリーン」に対してどうデザインすれば良いのかを解説しました。今年はこの傾向がさらに強くなると考えられます。昨年は O2O のようなオフライン、オンラインの連携が注目されましたが、導線をつくることに重きを置くところがありました。しかし、人々の生活はオフライン、オンラインと明確に分離できる状態ではなくなったことで、単なる導線では十分ではないと考えられます。
同時に存在し体験する
上図は、あるお店に入る前から出るまでのシナリオです。
オフラインの店舗に入るキッカケをつくったのがオンラインですし、店舗にいる間もオンライン・オフラインを行き来しています。『お店の中』というオフラインの世界にいるものの、オンラインの情報に常にアクセスできる状態にあります。これはパソコンがメインに数年前では想像しにくい光景です。ひとつの仮説に過ぎませんが、スマートフォンのようなデバイスが登場したことで、オンラインとオフラインの領域があやふやになり、常に行き来して生活することが当たり前になりました。
オンライン・オフラインという垣根を失ったということは新しい課題を生み出しています。ひとつは今まで以上にすべての配信チャンネルの連携が必要になる点。そして、人がどのように動くのかが予測しにくい中で、いかに効果測定を行うのかという点です。良い Web サイトやアプリを作るだけではなく、すべてのチャンネルで同等のメッセージや価値を提供しなければならないことを意味しています。
ひとつの例が アップルストア公式アプリ です。オンラインショッピングができるアプリですが、それだけではありません。アップルストアで製品をスキャンして決済することが出来るだけでなく、店内スタッフへ問い合わせることもできます。アップル製品を手軽に購入するためのツールであると同時に、アップルストアでの体験を助長する役割をもっています。常にアップルストアの価値が手元にある状態を作り出しています。
米国のスーパー Kroger も好例です。 Kroger も日本のスーパーのように独自の会員カードがありますが、このカードを頻繁に使っている方向けに パーソナライズクーポン を提供しています。カードに記録されている購買履歴から、好みの製品のクーポンがメールされます。オフラインでの体験がオンラインにも受け繋がれて利活用されているのが分かります。
生活シーンに入るための要素は
今まで Web サイトやアプリを作っていた立場から、企業のブランドをすべてのチャンネルで一貫性を保ちながら運営・配信する・・・となると少々飛躍した話になります。しかし、利用者がどのようなタイミングで Web やアプリにアクセスするのかということから考えるのであえば可能だと思います。ただデバイスに対応した場を作るだけでは十分ではありません。利用シーンの瞬間・瞬間を想像して、その中で必要とされているサービスや製品は何か。そこに Web やアプリの姿があるはずです。
以下が今後のオンラインにおけるデザインの課題です
- オフラインでの生活シーンをさらに想像する
- パソコンの前に座って Web をみるという姿だけではなくなりました。人が何を感じてスマートフォンに触れるのか、何が必要と感じてアプリを立ち上げるのかを考えることが作るときのヒントになります
- ソーシャルメディアとの連携
- Like やフォロワーの数はもはや何も意味を持ちません。ソーシャルメディアのボタンを設置するだけでなく、ソーシャルメディアを活用したコミュニティ運営という視点から、Web サイトやアプリがどのような役割を果たせるかを考える必要があります
- コンテンツが何処にでもある状態にする
- パソコン向け、スマートフォン向けという特定のデバイスに向けた制作の枠を超えて、どこにでもコンテンツが配信できるように設計しなければならない未来は近いです。オンラインで管理しているコンテンツをオフラインにも使えるようにするにはどうしたら良いでしょう
- オールインワンから最小最適へ
- 人々の生活シーンの瞬間に入るということは、今までのようにオールインワンで、利用者に必要なコンテンツを探してもらうのでは遠過ぎる存在です。1タスクの達成に最適化されたアプリが数多く登場していますが、Web サイトも似たような姿が求められているかもしれません。
今まで「オンライン vs. オフライン」のような言い回しを使って、分断・対立した状態にありましたが、今後は「オンライン x オフライン」という関係になっていきます。Web/IT 部門は独立した存在という企業も少なくありませんが、より一層の連携が必要になりますし、そうしなければ利用者から徐々に離れた存在になるかもしれません。