「分からない」から始まるデザインプロセス
分からなくて当たり前
デザインの意味がますます広がる今日。ビジネスや街作りに至るまで「デザイン」という言葉が使われているものの、実際に形作るには深い専門知識が必要とされます。
Web サイト制作も、ビジネスモデルやユーザー調査など様々な分野を理解しなければいけないですが、それだけでは完成しません。フロントエンドやサーバーサイドだけでなく、特定のアプリケーションの使い方を熟知することで、「Webサイト」が形作られるわけです。つまり、視野を拡大・縮小を繰り返すことが、デザインの学習、キャリアにおいて欠かすことができないわけです。
こうして書くのは簡単なことですが、実際に視野を拡大・縮小を繰り返して学習・実践するのは難しいです。時間は有限ですし、ゴールをイメージして情報収集したとしても、知ることができことは限られています。デザインの意味が広がり続けると同時に、デザイナーに求められる知識やスキルが深くなってきています。しかし、すべてを知らなければいけないわけではありません。そもそもすべてを知ることができない、という視点からスタートするべきだと思います。
「分かりません」と言うのは時には辛いことですし、言ってはいけない言葉のようにみえてしまうことがあります。私自身、コンサルティングや講師として仕事しているので「分からない」ことを恐れることがあります。また、キャリアが長ければ長いほど、自分は知らないことがたくさんあると気付かされることもあります。しかし、デザインはデザイナーだけに任せるには重要すぎるわけですから、デザイナーだけで抱え込むことはないと思っています。
最近は「分からない」がデザインの基盤であると考えるようになりました。
実験を通して知識を深める
デザインを進めていく上で「専門知識」と「実験」が欠かせないと思います。どれだけ準備をしても分からないことは必ずありますし、形にして始めて分かることもたくさんあります。だからこそ実験ができる場が必要なわけですが、無闇にいろいろなことを試せば良いというわけではありません。与えられた課題に対して適切な質問を投げかけ、ふさわしい手法で「分からない」の答えを模索するには、専門知識が不可欠になります。
実験は Web・アプリ設計において不可欠な過程ですが、クライアントや同僚を不安にさせる場合があります。分からないから実験するとはいえ、はやく完成させたいと人からみると立ち止まっているように見えるかもしれません。実験ができるように信頼を勝ち取ることはもちろんのこと、実験を通して明確な『次のステップ』を提示する必要があります。
また、実験(模索)をするための専門知識を身につけることで、より自信をもって実験ができる環境をつくることができるようになります。以下の項目はプロジェクトにおいて基本中の基本ですが、文書化されていても、改めて話すことをおすすめします。話してみることで文書では捉えることができなかったニュアンスを掴めるだけでなく、新たに発見された課題に対して議論ができます。また、自分が分からないことを明確にし、他の専門家達と実験の目的を決めるために役立ちます。
- クライアントはどのような市場でビジネスをしているのか?
- プロジェクトにおけるゴールはなにか?
- 誰のために作ろうとしているのか?顧客・ユーザーは誰?
- ユーザーはどのように彼等のゴールを達成させるのか?
こうした対話を通して「分からない」を明確にしていくだけでなく、話す行為そのものが方向性を定めるための模索になります。会話をするだけでなく、ユーザーテストも実験には欠かせません。ユーザーテストは専門家としての視点で提案できる絶好の機会ですし、今まで以上にテストは重要になります。ユーザーテストは実験室で行うものの他に、手軽にできるリモートテストも増えてきました。また、スマートフォンをはじめとしたモバイル機器であれば、同僚や友人を通してカジュアルにテストをすることも可能です。
「分からない」はプロジェクトの初期だけにあるわけではありません。コンセプト作りからリリース前まで常に存在します。つまり、ユーザーテストを始めとした実験は特定のフェイズに必要な手法というよりかは、必要なときに必要なだけ行うことになります。
分からないことは負のイメージが多少付きまといますが、分からないことを利用してデザインを洗練させることができます。分からないといって恥ずかしがることはないですし、分からないからこそクライアントにも同僚にも何が分からないのかを尋ねるべきです。尋ねることが新たな発見に繋がりますし、発見から模索するための糸口が開けるでしょう。