デザインとコンテンツを繋げて考えるためのアプローチ
11月15日、金沢の WDF主催で「UXデザインプロセスを活用したコンテンツの評価方法」というセミナー&ワークショップを開催しました。今までも何度かワークショップをしてきましたが、いずれも 3 時間くらいで短めでした。ほぼ 1 日つかう長時間のイベントは初めてでしたが、長くなければできない貴重な体験ができました。
決めて進めるプロセスを体感
配信者側が見せたいコンテンツが、利用者が求めている情報であるとは限りません。
カフェのオーナーであれば、内装の美しさや自慢のメニューを全面に見せたいと考えるかもしれません。しかし、サイトを訪れる方にとって必要なのは駐車場があるか、今開いているかどうかといった情報という場合があります。駐車場の有無をトップページの目立つ位置に掲載することが正しいというわけではありませんが、配信者側が考える『良いコンテンツ』が、ときには利用者が求めている情報を遠ざける場合があることを意識しなければいけません。
もうひとつの課題が運営です。「利用者のため」と考えてたアイデアも制作・持続できなければ夢物語です。最初はデザイナーがコンテンツを整えてくれますが、それがいつまで続くかわかりませんし、コンテンツを作ることも片手間だと簡単ではありません。
配信者側が求めているゴールと利用者の期待に応えるコンテンツ。これらを実現可能、持続可能なところを見据えてプランをたてる必要があります。
ペルソナやカスタマージャーニーマップといったUXデザインで用いられる手法は、利用者のニーズや文脈を共有するために便利なツールですが、これがどのようにデザインプロセスの役に立つのか見えにくい場合があります。作る行為に満足してしまい、デザインやコンテンツ設計のプロセスに活かせないのはもったいないです。
本イベントは、「カスタマージャーニーマップ」と「コンテンツの企画提案」という2つのワークを通して、UXデザインで用いられる手法を活かしてコンテンツの議論をすることを目的で実施しました。カスタマージャーニーマップの作った後を体験してもらうことで、なぜ共有するためのツールが必要なのか理解しやすくなったと思います。
あえてコンテンツだけ考えてみる
製作者であれば、ついついデザインを先に見てしまいます。見た目はもちろん、使いやすさや画面遷移といったインターフェイスに関わる部分が特に気になります。たとえコンテンツをチェックしているつもりでも、タイポグラフィやリズムに目がいきます。製作者であれば当然の見方です。
しかし利用者が求めているコンテンツがないのであれば、見た目がどうであっても関係ありません。デザインは意味がないと言っているのではなく、コンテンツの価値を増幅することで、はじめてデザインが活きると考えているからです。コンテンツから先に考えなければデザインするべきではないわけです。
最終的にデザインを受け持つ製作者だからこそ、コンテンツの提案が欠かせなくなります。コンテンツがあればデザインのイメージがしやすくなるというメリットがありますが、それだけではありません。依頼者(運営側)が困っているのは、「何を出せばいいの分からない」「続けられるか不安」「何がお客様が求めているか分からない」といったコンテンツの制作や運営に関わる部分だからです。ワークシートを公開しているのも、より多くの方が訪問者のことを意識したコンテンツに関わる質問ができるようになってほしいからです。
見た目は大事ですが、その前に「何が足りないのか」「どのようにすればメッセージが明確になるか」「利用者の行動に繋がる情報は何か」といった課題に応えられるようにならなければいけません。2つ目のワークで、デザインではなくコンテンツの企画提案だけ考えてもらったのも、ビジュアルに囚われないサイトの評価をする練習をしてほしかったという意図があります。
サイト訪問者が何が必要で、どのような道筋を通るのかを知ることで、派生的に様々な項目について依頼者と話をすることができます。運営、素材、管理方法、制作工程など、サイトデザインにも関わる重要な課題に取り組めます。見た目から始めてしまうと後回しになることを先にすることで、配信者側が求めているゴールと利用者の期待に応えるコンテンツを優先的に考えるというアプローチです。
個人的な見解ですが、最近そういった進め方ができる場が増えてきたと思います。もちろん簡単なことではありませんが、アンケートに「改善するためのヒントをみつけた」とメッセージを残してくれた参加者もいます。点になりがちな手法が、イベントを通して線として繋がったのであれば幸いです。