利用者の声と意図のギャップを理解する

「まぁこれで大丈夫だろう」と考える Satisficing という状態。利用者にはありがちなフィードバックから意図を探るための工夫が必要になります。

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利用者の声は解ではない

利用者の声を受け止めて、よりよい製品を作りたいとデザイナーであれば考えるはずです。しかし、利用者の声がデザインの解を提示しているとは限りません。ときには根本的な問題の解決になっていないことがあります。

それを裏付ける考え方として、政治学者であり認知心理学者でもあるハーバード・サイモン博士が 1956 年に提唱した「Satisficing」という用語が参考になります。これは、Satisfy(満足)と Suffice(十分)を組み合わせた造語で、日本語では「こんなもん化(参照)」「満足化(参照)」と訳されることがあります。

Satisficing とは、人が「まぁこれで大丈夫だろう」という解に落ち着く状態のことを指します。サイモン博士によれば、人は問題を解決するための最高の答えを探し求めることはせず、与えられた状況のなかで出来ることを考える傾向があるそうです。

例えば Facebook の「Like(いいね)」ボタンだけでは、投稿へのリアクションが難しい場合があります。多くの利用者は「違う種類のボタンがほしい」という要望をするでしょう。既にボタンがあるから、別のボタンを作ればいいという現状の枠組みで考えた提案です。しかし、それは投稿へのリアクションのしやすさを改善するという課題への解にならないどころか、UI デザインの問題も引き起こします。

また、利用者の声は解決案というより、妥協案の場合もあります。スマートフォンの充電のもちが悪いので、外付けのバッテリーを簡単に接続できるようにしてほしいという要望があるとします。利用者の声を基にバッテリーが接続しやすい位置にポートを変えるだけでは、スマートフォンを快適に長く使いたいという利用者の要望に応えているとはいえません。

意図を探るための配慮

もちろん、利用者の声を聞く必要はないという意味ではありません。調査の上で利用者の声は貴重なデータになりますが、要望通りに設計することが利用者のためのデザインであるとは言えないからです。彼らが発する声に秘めた意図を探るためのインタビューを実施することで、今後のデザインに大きく役立つことがあります。そこには、今まで気づかなかった課題の発見や、優先度を決めるためのヒントも隠されています。

デザインの会話をするときに「なぜ」を問うことが重要であると同様、利用者の意図を探るために「なぜ」は欠かせない問いかけです。発せられる言葉や文脈を理解することで、真のニーズやゴールがみえてくることがあります。

テキストのみのコミュニケーションでは見え難いですが、ユーザーインタビューであれば相手の仕草も意図を引き出すために役立ちます。表情や声の変化をみつけたら、その変化について問いかけてみると、言葉のニュアンスへの理解が深まることがあります。利用者の回答に対して、もう一歩踏み込む質問をすることで最初では得られなかった貴重な情報を手にすることができるでしょう。

質問の仕方を工夫するのはもちろんですが、以下の 4 点を気をつけることで「Satisficing」と呼べる状況を多少なりとも抑えることができます。

  1. 時間制限は焦りの基となります。焦りは様々な選択肢を考慮する時間を奪い、簡潔な反応になりがちです。
  2. 意欲が高い方は、製品へ深い理解があるだけでなく、無難かつ中間的な回答が少なくなります。
  3. タスクの難易度が高ければ高いほど、諦めてしまったり、意図を探るのが難しい反応になりがちです。
  4. 匿名性が高い環境だと、簡潔で意図が探りにくい回答になりがちです。直接対面したインタビューの利点のひとつといえるでしょう。

利用者の声を集める調査で、「Satisficing」を避けることはできません。あることを認識した上で、彼らの意図を探るための工夫が必要になります。利用者のひとことにはどのような意味が隠されているのか?フィードバックを得た際に、立ち止まって考えてみてください。

筆者について

Photo of Yasuhisa Hasegawa

組織の一員となるスタイルで一緒にデザインに関わる課題を解決するといった仕事をするなど、チームでデザインに取り組むためのお手伝いをしています。各地でデザインに関わる様々なトピックで講師をしています。