ところでコンテンツは誰がする仕事なの?
専門的だが、専門でする人がいない
昨年は、1 年を通して各地で コンテンツ関連の講演やワークショプをしてきました。アンケートの評価が高い人気講座になりましたが、多くの課題を残すことになりました。「よかった」と仰ってくださった参加者のソーシャルメディアやブログを追っていますが、学んだことを実践に繋げたり、今の仕事との関連付けに苦労しているという印象があります。これは参加者のスキルが足りないのではなく、そもそも誰がする仕事なのか分かり難いというところに問題があると思います。
コンテンツを扱う講座では、以下のような仕事があると説明しています。
- 自社における『良いコンテンツ』を定義する
- そのために、サイトへ訪れる人々の姿や文脈を明確にする
- 現状のコンテンツを見直し、品質チェックを行う
- 足りないコンテンツはなにか、必要なコンテンツはなにかを洗い出す
- 掲載までのワークフローを見直し、必要であれば設計もおこなう
- 運営可能なコンテンツを作り、ガイドラインを制定する
コンテンツマーケティングが多少バズっていることもあり、『コンテンツ』という言葉から、「人気が出る」「面白い」「好かれる」といったキーワードを連想される方が多いと思いますが、実際はそういう仕事ではありません。実際のところ、コンテンツを作る仕事より、見直したり、整理したり、統制をするといった、設計に関わるところがほとんどです。
もしかすると、Web ディレクターの仕事なのかもしれません。もしくは UX デザイナーがするのかもしれません。または編集者という可能性もあります。上記の仕事を今ある仕事の領域に当てはめようと思っても難しいわけです。
海外だと、こうした仕事を Content Strategist と呼ばれる人がするわけですが、まだ日本では少ないですし、これだけをする方はもっと少ないかもしれません。日本で認知されて長い Information Architecture(IA)ですが、それでも Information Architect と名乗る専門家はわずかです。ひとつの分野の専門家として成り立つのが難しい日本だからこそ、いろいろな仕事をしている人が、上記のようなコンテンツの仕事に携わるのだと思います。
知っておきたい領域
今はどのような仕事をしていても、職業名・役職だけでは説明できなくなりました。「これは私の仕事ではない」と言えない時期です。つまり、上記のようなコンテンツの仕事で必要なスキルを学ぶ際、その分野の専門書を読み漁るより、その分野に関わる物事をしっかり理解するほうが近道なことがあります。
誰がする仕事なのかは、組織形態によって様々ですが、とりあえず抑えておきたい分野や知識が 3 つあります。
1. Information Architecture
これを一番に挙げなくてはならないほど、重要な分野です。ここでいう IA は、画面構成やサイト構造といった従来の Web デザインで必須とされていた設計のための知識ではなく、情報はどのように分類され、整理できるのかという、古典的な IA を指します。メタデータやタクソノミー、情報と人との関わりなど、今ある多くの課題のヒントは IA にあります。
古い書籍ですが、IA の基礎を固めるという意味で、Web情報アーキテクチャは、今でも外せないでしょう。和書は第二版で止まっていますが、原書は第三版が出ているので、こちらのほうが良いかもしれません。コンテンツは、情報によって構成されています。だからこそ「情報って何だろう」という部分は掘り下げておきたいところです。
2. 人間中心設計の基礎
コンテンツの設計をすることは、人のことを考えていないようにみえますが、そんなことはありません。利用者だけでなく、運営者のことも考えながら、実現可能なコンテンツの枠組みを作っていくという意味では、コンテンツも人間中心設計といえます。人を無視してコンテンツは作れませんし、人のことばかり考えてもコンテンツは生まれません。鶏・卵問題と同じで、両方とも考えなければ前に進まないわけです。
サイト制作・運営に関わる人たちが、少しでも訪問者のことを意識したり、サイトオープン後のことをイメージできるようにする必要があります。そのために、人間中心設計で培われた様々な方法論やコミュニケーション手法が役に立ちます。昨年、日本でも訳書が刊行された THIS IS SERVICE DESIGN THINKING は良いリファレンス書です。手順(プロセス)に拘らず、幾つかの手法を自分の『武器』として持っておくと良いでしょう。
3. Web ライティング
「編集」「コピーライティング」ほどではありませんが、ある程度のライティングのスキルが必要になります。Web にドップリ浸かっていると文章を構造化して考えることが当たり前のように感じることがありますが、そんなことはありません。また、ジャーナリズムの授業を受けている方であれば、まず最初に要点を掲げて、徐々に詳細を説明するという『逆三角形型』が望ましいことを知っていますが、それを意識して書くのは簡単なことではありません。
また、書くときに視点の切り替えが必要ということを意識しなければいけなくなります。サイト運営側の立場だと、ついついアピール色が強いコンテンツを作りがちですが、それは利用者が求めているコンテンツではない場合があります。訪れる人たちにとって良いコンテンツを、適した形で作れるように、私たち自身も(ある程度)出来るようにしておきたいですし、そうなるように他の人たちを導けるようになりたいです。
設計する仕事の根底
誰がするのか分かり難いだけでなく、『Web サイト制作』という立場で携わると、コンテンツの仕事は、なかなか入り難いことがあります。作ることが前提で依頼がくると余計難しいです。コンテンツの設計に携われないから、見た目から始まってしまうという、悩ましい課題もあります。
「よし、サイト作ろう」と思ってからプロに依頼するのでは遅すぎるという場合があると思う。作ることが目的になると大事なことを見て見ぬ振りにしがち。
— Yasuhisa Hasegawa (@yhassy) March 2, 2014
これは、コンテンツだけの問題ではありません。デザインにしてもそうで、成果物を出さなければならない段階で依頼が来ても遅すぎます。デザイン思考とか、UX とかが注目されていても、一緒に仕事するタイミングが遅ければ遅いほど、その効果は激減して、あっという間に無意味な工程になります。
今、求められているデザインを実践するには、従来の「制作」のニュアンスが強いデザイン案件から、「設計」という意味を含めたデザイン案件が受けられてるような関係に変わることが必須です。作るだけの仕事が、ますます機械化されているわけですから、なおさらです。
そのときに、コンテンツの仕事をする人の価値はますます高まるでしょう。
PS: 運営も考慮してコンテンツ設計をすることの重要さについて、神森勉 さんと、ポッドキャストで話しています。興味がある方はぜひ。