デザインにある様々な対立について思うこと
デザインの議論で以下のような対立を見かけることがあります。
- アプリ/Web
- 文系/理系
- テキスト/ビジュアル
- アート/デザイン
- アクセシビリティ/視覚表現
- UI/UX
私たち人間は様々なことを分類することを好みます。一見相反するものは、明確に分類しようとしますし、それぞれの定義を明確にしようともします。片方を選ぶことで、もう片方は諦めなければいけないと考えている方もいると思います。それぞれの言葉の意味を理解しておくべきですが、どちらかを選ぶというものではないと考えています。
ふたつを合わせることで、私たちの仕事の可能性を広げることができるはずです。
- 自分の仕事をアプリか Web いずれかに絞ることはありません
- 文系だからといって数字が弱いということはありません
- テキストとビジュアルが合わさることでコンテンツが増幅します
- アートと呼べるような問題解決は存在します
- 視覚的な表現が豊かでもアクセシブルにはできます
- UI から生まれる体験もありますし、体験の理解が UI を生むこともあります
深みにハマった定義話や、もう片方を批判してまで線を引きたがる過度な分類は、マイナスにしかならないと思います。対立を生むだけで、両方を選ぶという選択肢を失うだけになります。結局のところ、上記のような『対立』は私たちが作り出したものであり、普遍的な事実ではないわけです。どのように言葉を消化して形にしていくかは、私たちひとりひとりにかかっています。
これは、アメリカ最大手の電話会社 AT&T の前身にあたるベルの新ロゴを売り込むために使用したビデオです。映画のタイトルデザインでも有名なソール・バスが、クライアントであるベルの役員たちへのプレゼンテーションとして制作されたそうです。
プレゼンテーションのために、ここまでやるかという驚きと同時に、今私たちが議論するような定義や分類が、いかに小さなことかと考えさせられる映像です。彼がデザインした映画のタイトルデザインも、映画の世界観を冒頭で紹介するという『問題解決』をしていますが、その独特の表現がアートの域に達しているように見えます。
私がソール・バスのように特定の分野に囚われないものを世に送り出せるとは思っていませんが、「 / 」で分断されてしまった言葉をつなぎ合わせるような立場にいたいと考えています。それができる方は、この記事を読んでいる人の中にもいるはずです。
時には自分が何者であるかハッキリ表現できないことがあります。様々な分野に興味をもつことで、特定の分野のエキスパートになれないというリスクもあるでしょう。しかし、様々な分野をつなぎ合わせる『翻訳者』としてのデザイナーの役割は、今後ますます必要になるはずです。デザインには様々な対立が存在しますが、どちらかを選ぶ必要なんてないわけです。