開かれたWebと閉じたWebの間で

Webのデータは API のような存在になりつつあります。Webブラウザを立ち上げなくても、閉じたエコシステムの中にあるアプリへデータを取り込むことが可能になりました。Web 技術とネイティブアプリの技術が組み合わさっていく未来はどのような世界になるのでしょうか。

先月の WordCamp の講演で、CMS は API のような存在になると話しました。Webサイトに訪れてもらうために情報(ページ)を管理するための CMS から、様々なデバイスやサービスへ配信することを考慮したコンテンツ(データ)を保持する CMS へ変化する。そのためにも、CMS を扱う私たちは Web ページという枠に囚われない設計が必要になるという内容でした。

WordCamp という場だったので、CMS にフォーカスした内容になりましたが、実のところ Web そのものが API になりつつあります。

従来 Web上にある様々なデータを読み込んで、人が理解できるインターフェイスにするのは Web ブラウザの役割でした。パソコンに最初からあったことと、多くの方に使われていたという理由で Web ブラウザという名のアプリで動作する技術が使われ続けていました。 Web ブラウザ上で情報を表示させたり動作させるためには CSS, HTML, JavaScript といった『言語』を必要としていましたが、それが変わりつつあります。

今は CSS, HTML, JavaScript のような Web ブラウザで情報を表示するための言語を活用しなくても、JSON, RSS, XML-RPC, REST のようなバックエンド技術を利用して直接データへ通信することが可能です。つまり、Web ブラウザを利用しなくても、Web のデータへアクセスし、異なるフロントエンド技術で表示させることが可能であることを意味しています。

アプリを見ると、その傾向が分かります。

Instagram今年のベストアプリと言われている Instagram は、HTML ではなくネイティブの言語で動作します。入手する方法は iOS の App ストアのみ。写真の撮影、公開、共有、コミュニケーションは基本的にアプリの中で行われるので、特定のコンテンツやユーザーへリンクするのは困難です。アプリは完全に独自規格の技術と配信システムによって構築されていますが、バックエンドは Amazon Elastic Compute Cloudという、Web生まれの技術が活用されています。

FlipboardiPhone版が出て話題の Flipboard も Web コンテンツが API のような存在になっている好例です。Flipboard のようなマガジンアプリを利用すれば、Web サイトに訪れることなく、様々なコンテンツを見たり読んだりすることが出来ます。Webブラウザを立ち上げる手間が省けるどころか、Web ページによくあるナビゲーションや広告といったコンテンツの消費の際に無駄な要素が非表示になることから、このテのアプリは読みやすいと好評です。

Instagram も Flipboard も独自仕様のフロントエンド技術を使って、Apple という閉じたエコシステム内でアプリを公開していますが、中身は Web そのものです。

例に挙がっている アプリは iOS (Apple) 向けですが、閉じたエコシステムで構築されたアプリから Web のデータにアクセスするアプリは Apple 製だけではありません。Google は Android、 Amazon は独自のマーケットプレイスを作り、似たような試みをしています。 Facebook も独自の App 経済を作りだしており、利用者から収集しているデータは他のライバルを脅かすほど巨大になっています。

Amazon, Apple, Facebook, Google という4つの大企業がそれぞれのネットワークを作り出している現在。バックエンドは従来のように Web にありますが、利用者の届けるには開かれた Web 上ではなく、閉じたエコシステムに入ることが余儀なくされました。Flipboard のようなアプリはそれを体現しているといえます。

Web というオープンな技術がバックエンドで使われているものの、アクセスの仕方が断片化していきます。Web ブラウザから誰でも自由にアクセス出来たのが、それぞれのネットワークに属さなければならないことから、今後の Web は閉ざされた世界になると Tim Berners-Lee は危惧しています。

今後数年は開かれた Web と、閉じた Web は双方に影響しながら進化し続けるのではないかと考えています。CSS, HTML, JavaScript はここ数年で劇的に進化していますし、ハードウェアの機能にアクセスする方法も増えてきました。Google が Webアプリ内での課金を実装するための API を公開しているので、アプリにしなければ収益を得ることが出来ない・・・というわけではない時代がくるかもしれません。

PhoneGap スクリーンショットAdobeに買収されたことで、今後 Dreamweaver との連携が気になる PhoneGap。Webサイト構築からWebアプリ構築するためのソフトウェアへ進化するかも。

開かれた Web と、閉じた Web の中間に当たるような展開も見逃せません。PhoneGap を使えば、CSS, HTML, JavaScript をつかってマルチプラットフォームのアプリを提供することが可能になりますし、Windows 8 のアプリ開発では CSS, HTML, JavaScript が活用できます。開発したアプリの行き先は、閉じたエコシステムへの配信ではありますが、Web開発を続けてきた人たちがアプリでの表現を模索するのには良いスタート地点です。ネイティブアプリと Web アプリは、まだ表現上の違いが多くありますが、利用者から見れば今後どちらを使っているのか分からなくなるのかもしれません。

企業によってコントールされた閉じたエコシステムがこのまま我々の生活を浸食するかもしれないという不安は多少なりともあります。しかし、Web 技術とネイティブアプリの技術が組み合わさっていく未来はおもしろいと思います。Webのスキルを Web ブラウザ上に留めなくて済むと考えると想像も広がりますね。

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筆者について

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組織の一員となるスタイルで一緒にデザインに関わる課題を解決するといった仕事をするなど、チームでデザインに取り組むためのお手伝いをしています。各地でデザインに関わる様々なトピックで講師をしています。