デザインの会話にあるぶつかり合いのメリット
ぶつかるから良くなる
文脈や話し手の背景により「デザイン」の意味合いが変わることがあります。先月のセミナーでは、デザインには葛藤やぶつかり合いが含まれていると話しました。ぶつかり合いと書くと、負のイメージが先立つかもしれませんが、デザインプロセスにおいて欠かせない要素だと思います。
デザインを語る場において、参加者が考えを述べることがアイデアを検証する(ぶつける)ことになります。『考えを述べる』ということは、自分の考え方がひとつの解になるということを証明しなければいけませんし、そうしなければ聞き手には理解できないことがあります。時には意見の相違がありますが、自然なことですし違いを歓迎するべきです。アイデアを出し合うからこそ見つかる課題もありますし、アイデアがより洗練することもあるからです。
良い会話ができたと思う瞬間は、誰のアイデアか分からないけど、皆が理解して先に進めることができる状態。「○○さんの意見が通った」「リーダーの意見でまとまった」というのではなく、皆でアイデアを出して健全なぶつかり合いを経て決めることができたときです。
しかし、毎回うまくいくわけではありません。デザインの話ができるように配慮しても、聞き手も同じように考えているとは限りません。また、参加者全員で意見を述べるからといって、皆の意見が採用されるわけではありません。民主主義的にデザインを決めているとらくだをデザインしてしまうことになりかねません。
完全一致ではなく納得ができる状態
誰かの意見は通らないわけですし、なかには自分の考えとは異なるアイデアが通ることがあります。大事なのは皆の意見(又は偉い人の意見)を採用することではなく、なぜその決断をしたのかが参加者に見えていることだと思います。以下のようなことが共有されていると、少しでも納得できるはずです。
- なぜそのように決まったのか
- 参加者の意見が、どのような影響を及ぼしたのか
- 次のタスクを実行できるかどうか
デザインにおける「良い決断」と見なされるものは、良い製品になるためのものだけでなく、プロジェクトを先に進めるためのものでもあります。製品の使い勝手が改善されるかもしれない素晴らしいアイデアでも、そのために行うためのタスクが不透明だったり、想定以上の行程が必要になるとすれば、良い決断とは言えないわけです。この「製品の質」と「前へ進める」の2つのバランスを伝えることが、決断を理解してもらうことに繋がることがあります。
理解の共有がなければ、いつの間にかデザインが間違った方向へ進みだすことになります。「自分たちにとって良いもの」という作り方では、現実味のない理想の形を議論することになり、ますますプロジェクトが前へ進まないということがあります。こうした状況を事前に防ぐためにも、アイデアを出し合った後に、なぜ決まったのか、どのように決まったのかの共有しておきましょう。
健全なぶつかり合いを
デザインにはぶつかり合いが必要であると書きましたが、すべてのぶつかり合いが良いとは限りません。以下のような言葉が会話ででてきたときは危険信号です。
- 批評のない「これは駄目だ」という批判
- 建設的な提案がない「これは難し過ぎる」という意見
- 「これはできていない」という不透明な否定語
こうした言葉を放置しておくと、不健全なデザインの会話になりがちです。だからといって諦めることはありません。言葉が足りないだけで本意を示していない場合があるので、以下のような切り返しをしてみると、本当に言いたかったことが聞き出せるかもしれません。
- なぜそう思うのか、もう少し教えてくれませんか?
- 何が足りなくて、難しいと思いますか?必要なものは何でしょうか?
- プライオリティをもう一度振り返ってみませんか?
会話のためのテクニックや、デザインを進めるための方法論を採用すれば、すぐにうまくわけではありません。時間が必要ですし、経験を積めば連戦連勝になるのかといえば、そんなことはありません。無関心な人、エゴが強い人、誤解している人もいます。いろいろな人が参加しているからこそ難しいですし、試行錯誤を繰り返すしかないという悩ましい現実もあります。しかし、理解を共有するためには、健全なぶつかり合いが必要だということを、デザインの提案や会話を通して示していくと、少しずつ伝わり、浸透していくでしょう。