クリエイティビティとコピーについて
複製、変形、結合。
これらは生物の進化において欠かせない現象です。細胞分裂という原始的な活動だけでなく、私たちのクリエイティビティにもいえることです。活版印刷から World Wide Web まで、私たち人類が作り出してきたものは「複製、変形、結合」を繰り返した結果といえるでしょう。私たちが無から突然生まれたものではないのと同様、クリエイティビティも進化の過程のなかから生まれています。
2011年に「Everything is a Remix(すべてはリミックスである)」というドキュメンタリー映画が公開されました。音楽や映画の歴史を振り返りながらアイデアはリミックスされ続けていることを分かりやすく解説しています。また、知的財産権の課題や、人がもつアイデアを自分のものにしたい欲についても触れています。
このドキュメンタリー映画は、他人のアイデアを好き勝手にコピーしても構わないといっているわけではありません。しかし、極端な知的財産権の行使や、アイデアに対する過剰な所有欲が人のクリエイティビティに良くない影響を及ぼすだろうと指摘しています。
クリエイティビティという言葉に、どこか神秘的なものを感じる人は少なくありません。そのなかには、クリエイティビティとはオリジナルの何かを作り出す能力と考えている方もいるでしょう。しかし、オリジナルを「今まで見たことがない新しいもの」と見なすのであれば、そんなものは存在しないかもしれません。新しいものと感じたとしても、たまたま見たことがなかっただけという可能性があります。
自分のちからで作りだしたものでも、誰かが既に作っていることも少なくありません。これがほぼ同時多発的に発生することもあり、その現象を「Multiple Discovery」と呼びます。ガリレオ・ガリレイとシモン・ステヴィンがほぼ同時に落下の法則を発見していたり、サミュエル・モールスとチャールズ・ホイートストンも同年に電信を開発しています(事例は Wikipedia にたくさん掲載されています)。私たち人間が同じように進化しているのであれば、こうした現象が起こるのも無理はないのかもしれません。
ソフトウェアや Web デザインは、複製、変形、結合の連続の世界。コードから設計概念まで様々な要素がリミックスされ続けています。世界中がネットワークで繋がるようになってから、リミックスのスピードがさらに加速してきています。その過程で、目を覆いたくなるようなリミックスもたくさん出てきていますが、次の段階へ進むための素晴らしいアイデアも生まれています。その過程に自ら参加して何か作り続けることがクリエイティブに欠かせない行為だと思います。
クエンティン・タランティーノ監督の作品をパクリをつなぎ合わせた映画と見なしますか? 私にはクリエイティビティに溢れた作品にみえます。