Shift4で多次元化する社会と人について話しました

会場の様子撮影: 飯田昌之

「Web」をキーワードに様々な視点から1年を振り返るイベント「CSS Nite Shift」。 4回目になった今年も引き続き、講演の機会をいただきました。昨年の Shift3では「不景気から学べる今後のサイト制作のありかた」という題名で不景気を切り抜けたビジネスアイデアや視点に注目してどのように今後取り組んでいけば良いかを話しました。社会情勢を理解することが仕事に役立つだけでなく未来へのヒントがみえてくるというのが前回のテーマでした。今年も昨年と同様社会の動きについて語りましたが、Webと私たちの関わり方の変化と、人の価値観やライフスタイルの変化に注目しました。

セッションの題名は「多次元化するWebと今後のWebデザイン」でしたが、そこにでてくる『多次元』とはどういう意味なのでしょか。

同時多発的に存在する『私』と物理的な私を表した図

物理的に存在する私はひとつしかありません。しかし、私たちはたくさんの『私』をもっていてそれらが同時多発的に様々な場に存在しているだけでなく、場合によってはひとつの『私』が独自の成長を遂げている場合があります。

たくさんの『私』がいるというひとつの例を紹介します。
例えば CSS Nite のようなイベントに参加しているとしましょう。確かに物理的には会場にはいるわけですが、もし Twitter をそのとき利用しているのであれば、私の意識は Twitter でつくったネットワーク上に存在し、コミュニケーションをとっています。そしてまた私の意識は会場に戻ってくるわけですが、そのとき Twitter 上に残した『私』というアイデンティティはネットワーク上に残っていますし、フォロワーはそこに私がいることを前提としてコミュニケーションをとることがあるでしょう。

私たちの身体はひとつしかありませんし、意識できる場も一度にひとつだけです。しかし、私たちは Web を利用することでたくさんのネットワーク上に『私』を残しつつ、時間とともに常にネットワーク上にある『私』を行き来しています。これが今回のテーマにもなっている多次元の世界観で、それが当たり前の社会になっています。たくさん『私』があるものの、そこにある私はすべて本物であると同時にリアルです。それがたとえハンドルネームを使っていようと本名だろうと関係ありません。

物理的な存在や感触はリアルという価値観を認識するための強い要素です。しかし、それだけがリアルを定義するという価値観は多次元の世界を自由に動き続ける私たちには不十分です。そこに『私』がいて何か自分なりに感じることがあれば、それが Web であろうとリアルではないでしょうか。実はリアルという考え方は主観的なひとつの価値観に過ぎないと感じています。

では、こんな小難しいことがどう Web デザインと関わるのでしょうか。

先述したように、私たちは多次元化したリアリティを自由に動き回る存在です。駅で電車を待っていたかと思うと、Facebook でコミュニケーションをとり、席についたら今度はブログを確認する。ほんの数十秒の間でも私たちは様々な場に存在し、寝ている間も Web に残したたくさんの『私』は存在し続けています。そんな私たちだからこそ、物理的な特徴だけでセグメンテーションが難しいですし、デバイスでの切り分けも漠然すぎます。そうした表層的な人間像に対するデザインではなく、一瞬一瞬に対するデザインが今後より一層必要とされると考えています。

情報だけでなく人の意識も目まぐるしいスピードで動き続けているからこそ、そのスピードに付いて行けるようなコミュニケーションデザインを考えなければいけません。それは情報 (コンテンツ) をよりポータブルにする必要があるのかもしれませんし、情報の配信経路を工夫しなければならないのかもしれません。スマートフォン向けのサイトを制作したり、ソーシャルメディアを活用することは実現手段のひとつかもしれません。しかし、人々がどのような世界観で今生きているのかを理解して作らなければ、出来上がったものもなんとなく表層的で流行に乗っているだけで終わる可能性があります。「なぜ」に対して回答出来ないのであれば、価格競争に飲まれてチープ化するか、印刷機になるしかないのではという危機感もあります。逆に、人と Web との関わりへの理解を深めることで、デザインの意図を伝えることが出来るだけでなく、あなたならではのソリューションが提供できるはずです。

正解の回答もないですし、頭が混乱してしまう話題かもしれません。「だからどうした」と考える方もいるでしょう。

作り方を学ぶことは大事ですし、無視は出来ません。ただ、Shift4 で話したような答えのない話題をあえて考えてみたり、誰かと話し合うことで共有できる価値観は、作り方を学ぶことと同じくらい高い価値があると思います。そしてその価値は時代で廃れることもありませんし、将来の私たちの仕事の仕方にも影響するでしょう。

あなたにとってのリアルは何でしょうか。どのようにすれば一瞬へのデザインが可能になるでしょうか。Webサイトという階層構造を保ったページ群がそういった世界観でも必要とされるのでしょうか。こうした考えをいろいろな方から聞いてみたいですね。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。