質問をためらう理由って何だろう?
まずは「なぜ自分は質問を躊躇してしまうのか」を考えてみることで、一歩前に進めるようになります。
質問をすることはとても大切です。質問は、より良い意思決定を促し、新たな視点をもたらすきっかけにもなります。デザイナーにとっても質問する力は必要不可欠ですが、肝心な場面で手を挙げたり発言したりすることにためらいを感じる人は少なくありません。重要性を理解していても、実際に質問するのは容易ではありません。ポッドキャストなどを活用して質問の機会を増やしているものの、時には躊躇してしまうこともあります。
ためらいの背景には、心理的および社会的な要因が複雑に絡み合っています。個人のレベルでは、同僚の前で無能や準備不足に見られることへの恐れが挙げられます。人間の脳は社会的地位を守るように働くため、質問を通じて不確実性を認めることは、弱みを見せる行為と感じられることがあります。特に、専門知識が重視され、素早い理解力が能力と結び付けられがちな職場環境では、この心理的な障壁が一層顕著になるのです。
こうした個人レベルの課題がない場合でも、組織内の力学によって質問を避けてしまうことがあります。人によって、業務の流れを止めないよう暗黙の圧力を感じています。質問をすることが、プロセスを遅らせたり、時間のかかる解決策を必要とする不整合を明らかにしたりする「面倒な人」「波風を立てる人」として捉えられる恐れがあるためです。たとえそれが品質向上や目的の明確化といった正当な目的のためであっても、見えない同調圧力により質問ができなくなることもあります。
過去の経験も、私たちの質問行動に無意識のうちに影響を与えています。キャリアの初期に質問をした際、冷淡な態度や苛立ちで対応された経験は、長期的な躊躇のパターンを形成します。一種の「感情的なブックマーク」のようなものが記憶に刻まれ、その結果、たとえ意見が言いやすい環境であっても発言を後回しにしてしまうことがあります。
心理的安全な環境を作ることは重要ですが、それは単に「話しやすい場」を提供するだけでは不十分です。組織内で質問をためらう理由は、心理的要因だけでなく、社会的・組織的要素や過去の経験などが複雑に絡み合っています。本当の意味での心理的安全性とは、単なる話しやすい雰囲気を作ることではなく、「質問を通じて学ぶ」という組織文化を意識的に育むことにあります。そして、その実現にはリーダーシップの役割が極めて重要です。
例えば、経験豊富なリーダーが自ら「この部分については私もまだ十分に理解できていません」と発言することは、周囲にポジティブなシグナルを送ります。それは単なる謙虚さのアピールではなく、「分からない」と言うことが許される環境であると示すきっかけになります。「分からない」と言える強さについて触れた偉人といえば、哲学者のソクラテスが挙げられます。彼の「無知の知」という概念は、自分が何も知らないことを認識する知恵を指します。多くの人が「知っている」と思い込む中で、自らの限界を理解することこそが、学びの出発点となります。
明日からいきなり積極的に質問するのは難しいかもしれませんが、まずは「なぜ自分は質問を躊躇してしまうのか」を考えてみることで、一歩前に進めるかもしれません。