感性によるデザイン データによるデザイン
3年前に Doug Bowman が Google に参加したニュースを聞いたときは、意外な組み合わせだと感じると同時に今後どう Google が変化するのか楽しみになりました。彼がどのように Google に関わったかどうかは知りませんが、表に出る出ない関係なく様々なレイヤーにおいて影響を及ぼしたと思います。そして、先日 Goodbye Google というエントリーで Google を去ることになったと告げています。次どのような活動をされるのか楽しみではありますが、エントリー内には気になる部分も幾つかあります。
彼は文中で「エンジニアばかりの企業になると、問題をいかに処理 (engineering) するかが話の中心になる」と書いています。主観をすべて省いてデータから答えを探るアプローチ。Google はどの青が良いのかインハウスで決めず41種類の青を使って、利用者がどの青を好むのかデータを収集したそうです。デザイン案を提案する際もなぜそうしたのかをデータで示す必要があったとか。
彼が遭遇した『壁』はエンジニアが中心にいる Google のような巨大企業だけでなく、Webサービスやコマースを構築している方であれば一度は似たような経験したことがあるのではないでしょうか。アクセスの分析やユーザテストを行ってレイアウトを調整することはよくあることです。レイアウトを少し調整するくらいのことで「デザイナーの意思を尊重していない」というのも違うと思いますが、サイトのコアになる部分を崩してまでデータに頼り切るのも疑問を感じます。
私は Google のデザイン決定はひとつの極論へいっているような気がします。データは尊重すべきですが、データが答えではありません。例えば数字だけでは、利用者のそのときの気分や、使っている状況、環境など見出せません。そしてそうした見えない『変数』がサイトの使い方に大きな影響を及ぼします。また ABテストをはじめとしたデータ収集も有益ではあるものの、ひとつの囲いの中での調整にすぎず、利用者に気付きを与えることが出来るようなソリューションにならないこともあります。ソリューションによっては今までとは全く違うアプローチが必要なときもあります。
Google の中だけでみても Gmail や Google Maps のような違うアプローチを提示したサービスがあります。エンジニアの視点ではありますが、データでは見出せない新しい視点を紹介したという意味で素晴らしいデザインです。こうしたプロセスをビジュアルデザインでも取り入れて欲しいなと感じています。
データ分析してデザインを調整するのもひとつのデザインプロセスとして成り立っていますし、実際 Google はそれで成功しています。ただ、サーバーの向こう、スクリーンの向こうには生身の人間がいて、彼等には感情という数値化不可能な変数をもっています。コンピュータでも人の感情に響くサービスやプロダクトになれます。それを意識したエンジニアとデザイナーが一緒に作ればもっとおもしろいものが作れるような気がしますけどね。
結局のところ片方だけというわけにはいかないです。インターフェイスにもエンジニアマインドは必要ですし、どのように動作させるのかを考えるにおいてビジュアルデザイナーマインドは必要です。
こうした行き違いが去る理由であるとは Bowman は語っていますが、毎日がチャレンジであったと想像します。人は同じものを見ていたとしても捉え方や解釈は人それぞれです(個人的には完全なユニバーサルはないと考えていますが)。シンプルという言葉の捉え方でさえ様々です。新しい会社に入るときやクライアントを話すときも、捉え方の違いに驚くときはあります。まず彼等の言語もしくはコード(規準・作法)を学ぶことが先決になります。僕も以前全く違う業界でWebサイト作りなんてしてましたが、毎日がチャレンジでしたし、コードを学ぶことで必死でした。学んだとしても上手くいかないときはありますが。
テクノロジーに寄り添うウェブデザイン。今までの媒体に比べデータが収集・解析しやすいので、活用する機会は多いです。同時に、そのデータに翻弄されてしまう機会も少なくないと思います。バランスを理解してソリューションを決定出来るリーダーが今まで以上に必要とされているのでしょう。