Webデザインが抱える制約と評価の仕方
先週になりますが、Don Norman 氏が PHD-DESIGN のメーリングリストで発した言葉が話題になりました。カリフォルニア大学デービス校デザイン課の Web サイトが酷いというので彼が厳しく避難した内容。こんな文字が小さい Web サイトをつくるデザイン課を受講する意味はないと言い放っています。その後、Webマスターも登場するなど様々な意見が交換されています。
Webサイトをみると分かりますが、10年くらい前につくったように見えても仕方ない見た目です。文字が小さいだけでなく、文章の背景にアニメーションを付けたいがために Flash を導入したのだろうと思わせる演出もあります。Webデザインを仕事にしている方なら思わず突っ込みたくなるところがあると思いますし、Norman 氏のような意見を発する人もいるかと思います。
私も Web デザインを仕事にしている端くれなので、言いたいところは多少なりともあります。しかし、デザインの評価というのは単に完成品をみればできるというわけではないのが難点です。このサイトが作られた背景を知らずして「こんなデザインは駄目だ」と評価するのは感情的な意見を述べているだけであり、批評・評価とはいえないでしょう。
例えばこうした大学のサイトの場合、幾つかの『制約』のなか制作・運営されている可能性があります。
- サイトを改善するための費用がない
- 限られた大学の予算ではプライオリティが他にある
- カリキュラム上、生徒に作らせるようにしている
- 学部で決定権がある人のテイストやWebの知識に大きく左右されている場合がある
大学全体から捉えた場合、ひとつの学部のマイクロサイトのリニューアルの意味がどれだけあるのでしょうか。そのサイトのアクセス数が少ないのであればプライオリティはさらに下がるでしょう。
似たような制約は学校のサイトだけでなく、企業でもあるかと思います。
デザインをしている人がよく見失いがちなのが、デザインが良ければすべて良くなると思い込んでしまうところにあります。これは UX にしてもそうです。利用者のことを考えて、彼等の体験を向上させることがすべてではありません。デザインはビジネスゴールを達成することもひとつの重要な目的です。最低限のニーズは何かを見つけ出し、それを実現するには何をしたらいいのかという課題とぶつかり合いながら、理想のデザインを積み上げていくことになります。つまり、デザインよりビジネスゴールを優先させて考えなければならない場合もあるわけです。
利用者の視点であればデービス校のサイトを「字が小さくて読み難い」と一蹴すれば良いでしょう。しかし、デザイナーの視点であれば、様々な事情や制約があることは理解出来るわけですから、感情的で軽率な意見をするべきではないと考えています。デザインは制約の中で最善をつくすプロセスであって、理想と比較するものではないからです。
もちろん、Norman 氏の意見が間違っているわけではありません。デービス校のようなサイトは今でもたくさん存在していることは Web デザインが抱える深刻な課題を提示しているからです。
- グラフィックデザインとの衝突
- 紙(スクリーンショット)で美しいものが Web に最適だとは限らない
- 運用コストと改善ためのサイクルの不在
- 柔軟性とコントロールのバランス
- 媒体やアプローチで異なるデザインの評価
デザインの評価は難しいです。時の流れが早いわりには、サーバーに永続的に残ってしまう Web サイトの評価は特に難しいです。しなしながら、評価をしないのは我々デザイナーの勘と目が鈍る第一歩になるので、機会があれば同僚と批評をする時間を設けるべきだと思います。そのときに「このデザインは何を達成させようとしたのか?」という部分にフォーカスすると良いでしょう。我々は、このデザインはうまく出来たのかという結果や手法に注目してしまいがちですが、結果や手法は感情的な評価になりがちです。それより、彼等の目的が何であったのかを議論することによって、様々な制約の中で自分たちだったらどのような手法を達成できたのだろうかという建設的な話になるでしょう。
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